金属部品加工『初心者さん』の仕事の悩みを吹き飛ばしましょうか?

部品加工の基礎

金属部品のフライス盤、旋盤、研磨など、よくある町工場に就職してはみたものの、なかなか腕前が上達しなくて自信がなくなってきた・・・というお悩み相談を見かけることがある。

 

私も、もともとが薬剤師でありながら、何の予備知識も無しに町工場のフライス盤をいじくり倒す職業に飛び込んだわけですが、あれこれ10年以上の経歴になってしまいました。

未だに、私自身は職人と呼べるのかもわからないし、職人であるという自覚さえもほとんどないまま来ていますが、それなりの加工スペックは持っているつもりではあります。

 

それなりの信頼も頂いているという自負心もある。

 

もちろん、出来ない加工もあるさ。

 

でも、機械加工のオリンピックに出るわけでもないし、何でもかんでも全てを網羅できるくらいのレベルにならなくても、一定の範疇で腕を磨けば仕事人としてはやっていけます。

 

今、自分の腕に自信がなくて、辞めようかなぁ、どうやって何から勉強していけば良いのか分からないっていう新人さんたちに私なりの考えとアドバイスを捧げよう。



新人さんによくある三重苦

 

ベテラン職人さんもかつては歩んできた道ではあるのだが、新人さんはかならずある一定の苦痛に満ちた毎日を送る時期を過ごさなければならない。

時には脂汗が出るようなこともあるだろう。

 

朝起きて「会社に行くのいやだなぁ」って思うような時もあるだろう。

でも、それはあなたが部品加工というマラソンの世界を走り始めた小学生と同じだからだ。

 

小学生の頃の冬のマラソン大会を思い出してほしい。

嫌な思い出がいっぱいある人は多いのではないだろうか。

 

このクソ寒いのになんでゼーゼー言いながら走らないといけないの!!って心の中でボヤいていたに違いない。

そして、めちゃくちゃしんどかっただろう。

 

でも、大人になると何故か自らすすんでマラソンをする人が増えるのだ。

あんなにマラソンが嫌いだった人だってマイペースで続けている人もいる。

時には走り続けることに快感を覚える人もいる。

 

部品加工も同じです。

 

作るものは毎回違ったりもしますが、基本的な加工ノウハウはだいたい決まってきます。

あとはルーチンに繰り返して手早く出来るように訓練と経験を積み重ねるしかないのです。

 

そのとっかかりが小学生のマラソンと同じでめちゃくちゃしんどい。

 

でも、少しなれてくると余裕も出来てきて加工方法について考えだせるようになる。

ここでやっと、市民ランナーレベルってわけです。

 

それも柔軟に試してみたりできるようになり、数をこなせたら段々と部品加工そのものが楽しくなる。

「こんな難しい部品作れる?」って聞かれると、もうウズウズするようになるとプロのマラソンランナーと同じ状態です。

 

なのに、初心者さんはゼーゼー言っている状態にへこたれて「辞めようかなぁ」「才能ないかも」って悩みだすのです。

才能があるとか、ないとか言えるのはまだまだ先の話しです。

スタートラインに立ったばかりで何を言っているのかな?っていうのが私たちの意見でもある。

 

だがまぁ、その気持ちも分からないではない。

何故なら、繰り返すが私たちも同じ道をたどってきたから。

初めからプロ級に部品加工をできる人も、小学生1年生で42.195kmのマラソンを2時間以内に完走できる子供もいませんよ。

 

失敗を恐れて加工時間が異常に長くなってしまう

これは超超初心者さんにあるあるな話しです。

とにかく、慎重すぎるほどに慎重なんですよ。

 

加工に必要な計算とかも何回もやっちゃう。

別に悪くないけどね。

ただ、会社はボランティアで部品加工を請け負っているわけではないので、決められた時間内に効率よく仕事をこなさないといけません。

 

あなたが1日かかって売上5000円の仕事をしたところで、実働25日間で125,000円です。

そこに、機械を動かす電気代、使用した工具代、切削油などの消耗品代などの諸経費を差し引いて、あなたにどれだけの給与が支給されますか?

 

会社は営利集団ですから、利益を上げないことには従業員に給料を出せないのです。

当たり前ですけどね。

それで、上司や先輩がヤイヤイ言うのです。

 

でも、これは新人さんだからこそ仕方ないのだ。

というより、新人のあなたに即戦力なみの貢献度を会社はいきなり求めてないから安心しな!

彼ら上司が「もっと早く手を動かせ!」と言ったところで、あなたの動きが倍速になるわけがないのも百も承知さ。

だって、新人だもの。

 

でも一定の期間が過ぎる頃には、自分でも気付かないほど慣れた手つきで加工作業をするようになります。

というより、機械操作に慣れます。

 

最初のうちは、機械を間違えて動かしてしまったらどうしよう・・・とか、失敗して怒られたらどうしようとか思うわけです。

でも、上司側から言わせてみれば、たとえ失敗しても取り返しのつく仕事しか最初は与えません(笑)

 

でも機械の誤操作でぶっ壊すのだけはやめてくださいね。

工作機械って1台で1000万円以上するのはザラですから、ぶっ壊すと・・・

あ~怖。

 

まぁ、品物に関しては失敗が許されないようなものは指一品触れさせませんから。

当たり前でしょ。

 

だから、思い切って加工してください。

スピード感を高めてください。

自分で意識しないことには、いつまでたってもダラダラと動く癖がついてしまいます。

 

一番怖いのは、ダラダラしているって上司に判断されてしまうことです。

給与面に響きますよ。

結果を残すのも大事だけど、頑張ってるアピールも時には大事だから。

そこはプロ野球選手と同じ。

 

焦って加工して失敗ばかりしてしまう

先輩から「早くしろ!」「お前、1日でどんなけしか稼げてないと思ってるんや!」など毎日のように罵声を浴びせられている新人さんがいたとしたら、お悔やみ申し上げます。。。

 

町工場の社長とか、工場長にとっては会社の経営管理に躍起になっていることが多い。

そのため、どうしても売上に貢献度が低い、あるいはマイナスになっている新人さんにはキツクあたってしまうこともあるのかもしれないが、私の場合は言葉で尻を叩きはするかもしれないが、新人さんの研修費用だと思って赤字部分は飲み込むのが会社の務めでもあると思っている。

 

大手会社でも同じで、研修制度ってのがありますよね。

研修期間もきっちりと給与は支給されますが、会社の売上に貢献していますか?と問われるとどうだろう。

もう、将来にしっかりと貢献してくれることを見込んだ投資として見るほかないですよね。

 

町工場の部品加工も同じなんですが、規模がいかんせん違いますので、少人数の会社では所属するひとりひとりの稼ぎ分が会社の売り上げに反映される度合いが大きくなるんです。

なので、上司はあなたに「もっと早く加工しろ!」と急かしてしまうのです。

 

そうすると、あなたも焦って早く加工しないと!!!ってなる。

「あっ!!」

そんな大きな悲痛の叫びがあなたの口からこぼれるのはすぐ予想できる。

 

一度失敗して、パニックになると失敗の嵐が待っているわけです。

部品加工の失敗って、加工の最後の最後でやっちゃうとかなりダメージが大きい。

その日のモチベーションもかなり下がる。

 

でも、上司からは怒られ、再加工を急かされ、また焦る。

でもやる気が・・・

 

わかる。わかる。

 

実は、これもベテランさんが同じ道を辿っています。

あなただけじゃない。

これはメンタルの修行だと思わないといけない。

 

時間と経験がこの問題と悩みを解決してくれます。

 

自分がベテランになると、急かしてくる相手が上司ではなく得意先の社長とか営業マンに変わるので厄介ですけどね。。。

 

図面を見るたびに加工方法がわからない

もうこれは、新人さんの未熟さの一言に尽きます。

でも、最初は分からないのも仕方ない。

だから先輩に教えてもらったりしながら前に進むわけですが、中には問題児の新人さんもいるんです。

 

何回教えても覚えられない新人さん。

 

ここの計算方法はこうやって、ああやって・・・って教えた翌日にはもう忘れてる。

 

先輩たちはね、なんだかんだ言っても後輩から加工のことで聞かれると嬉しいもんなんですよね。

でも、何回も同じことを聞かれるとイラっとする。

たぶん、誰でも同じでしょ。

 

教え方が悪いのか?って思っちゃうほどに物覚えの悪い初心者さんはいるが、頭がいいとか悪いとかじゃないくて、取り組み方にも気をつけないといけません。

先輩に教えてもらったことはメモしてますか?

 

その場で「はい、はい」と聞いているだけで覚えられます?

覚えられる人はいいですけれど、自信がなければメモしましょ。

学校と同じですから。

 

また、自分で調べたこととかもしっかりとメモしておかないといけません。

極力自分の力で解決できるようにして、確認のために先輩に聞くというスタイルをとるとかなりウケがよくなりますし、評価が高くなりますよ。

何でもかんでも1から10まで聞いたらいいかっていう考えは捨てるのだ。

 

自分で調べて、メモして実践して結果をまたメモに残す作業が一番あなたの脳にスキルを蓄積してくれる。

 

 

機械加工のノウハウは「キーワードのかいつまみ」の積み重ねで蓄積される

 

よく新人さんの中には部品加工の勉強を何からしたらよいのか分かりませんっていう意見を聞くが、正直正解なんてない。

あなたが配属された部署で使う工具も機械も加工内容も全て網羅できる勉強方法なんてないのだ。

 

結局、一番最初にあなたが見つけなければいけないのは、部品加工をするための教科書ではない。

あなたが欲しい知識のキーワードは何か?を見つけることだ。

 

あなたは今、穴をあけたいのか?

6面引きをしたいのか?

溝切り加工をしたいのか?

ネジ切りをしたいのか?

 

あなたが欲しい技術のキーワードを挙げてみよう。

 

今は便利なインターネットがあるじゃないですか。

それをフル活用しましょう。

 

もちろん、ネットにある情報が100%正しいなんて思ってはいけません。

あくまでも参考資料にするのだ。

その資料をもとにあなたの現場で試せばよい。

 

もしかすると、職場の先輩がすでに試しているかもしれないよ。

一度聞いてみたらいい。

 

そうやって ”今” あなたが欲しい旬なキーワードを積み重ねることが結果的にあなたのスキルアップにつながっていくのです。

今のあなたに不必要な知識をどんなに積み重ねても実践できなければ、それはゴミ同然ですよ。

 

いずれ使うかもしれないなんて言っても、今使えなければゴミ。

そう思って、割りきった知識の収集に努めることが会社の中で成長する早道です。

 

 

先輩の言うことが絶対的に正しい方法と思いこまないこと

先輩がこうやりなさいって言ったから。

そうやって何の疑いもなく加工作業を進める新人さんは見方によっては素直で良い子ですけど、もしかするとその加工方法よりもずっと効率的な方法があったとしたらどうしますか?

 

可能性はゼロではないですよね。

 

「でも、先輩の教えてくれた方法よりも他の方法が効率的かどうかとか分からないです」っていう声が聞こえてきそうです。

そこは、先ほどにも書いてきたように、あなたが知識の蓄積をしていけば気付くようになってきます。

 

あるいは、やっぱり先輩の方法が自社では最も効率的だったと回帰するかもしれません。

とにもかくにも、まずは疑いを持つことから始めよう。

それがあなたを成長させてくれます。

 

工具カタログの数値を鵜呑みにしないこと

これもまた初心者さんがよくやる勉強方法の1つで、工具カタログを見て切削条件等を覚えようとする。

だけど、あまりカタログに書かれたメーカー推奨の切削条件は鵜呑みにしない方がよい。

 

工具以外の要素となる切削油、機械の剛性などの条件が絡んでくるとその通りにはいきません。

やっぱり参考にはしても、条件探し等は実際に自分の機械で試さないと分からないものです。

 

多くの会社では、使用している工具の最適で最速の加工条件を模索しながら毎日動いています。

いつもいつも、同じ条件でいけるとも限りませんし、微調整は常に必要になる。

そこが加工者としてのスキルの違いが出るところです。

 

部品加工に完全なるマニュアルはないと思いましょう。

 

 

本当の加工スキルアップは実践・実験・実体験しかない

 

新人さんがいつも加工方法の勉強をしていますって言いながら、実際の工場の現場では毎日同じような作業をしていたり、先輩に言われた方法しか行わない光景はよく見かける。

ま、よその会社の方針等には一切口出しをするつもりはないのだが、反抗してみたらいいのに・・・とか思ったりもする。

 

反抗って喧嘩を売るとかじゃないですよ。

 

「こんなやり方を本や動画で見たんですけど」っていつもと違うやり方について相談してみるとか、最悪、こっそりやってみるとかです。

でも、自分の勝手な思いつきで実践はしないようにしてください。

 

金属部品加工の世界は怪我が命取りになることもある。

機械に巻き込まれて死亡するという事故も数えきれないほどあることを覚えておこう。

 

だけど、これだけは言える。

本当に部品加工でスキルアップしたいと悩みを抱えているならば、本で勉強するだけではなく、試しに実践して実体験してみないといけない。

どれだけの条件で加工したら工具が折れてしまうのか、品物の仕上がりがキレイになるのかなどは自分が使っている機械や工具、切削油などによっても変わってくるからだ。

 

 

「一人前」という言葉に惑わされてはいけない部品加工の本質

よく金属部品加工の世界でも一人前になるには10年かかるとか聞きます。

私の祖父も確かフライス盤を一人前に動かせるようになるには8年はかかるみたいなことを言っていたらしい。

 

しかし、新人さんがそのような言葉を真に受けていてはダメです。

 

そもそも、一人前ってどんな状態?どんなレベル?

あなたは、はっきりと言葉にして言えますか?

 

部品加工というひとくくりの中には非常に多種多様な部品があり、それぞれに要求されるような加工技術も加工方法も異なるのです。

なのにAという加工方法を10年続けたところで、Bという加工のスペシャリストになれるはずがありません。

 

極端な例だと、ずーっと汎用フライス盤で荒加工とか6面引きしかやってなかった人に「さぁ、10年たったから今日から3次元加工を頼むわ!」って言ってもできるわけないし。

 

だから、一人前という呪縛の合言葉は一旦忘れるべきです。

 

極論は仕事を辞めるまで向上心を持ち続けないと、技術(腕前)は停滞するか年齢による体力の衰えによって衰退してしまいます。

ある特定の技術を磨き続けるという特殊な場合を除き、機械加工で色々な一点ものを加工するならば「どうやったら、もっと速く加工できるか」「どうやったら、もっと効率よく加工できるか」「もっと性能の良い工具は使えないのか」など情報収集に努めることも大事です。

 

ネットが使えるならyou tubeという便利な動画が見れるサイトだってあるわけです。

そこには多くの方や企業が部品加工の様子をアップしてくれています。

それらを見ても大変参考にはなります。

 

ただボーっと動画を眺めては「スゲー」とか感想を言うだけではなく、休みの日とか就業後とかの1時間でも実験時間を会社に許可をもらってやってみるとか、あるいは上司や先輩に相談してみるとかしないとダメです。

 

実は、そういう向上心を見せるという行動は、見せられた上司サイドにとってもあなたにとっても有益なことに気付かないといけない。

やはり、会社側としては一生懸命になって自発的に考えて相談してくれたりする従業員が大好きです。

そして、そういう行動が出来る人には頼りたくなるもの。

 

人は頼られるとすごく嬉しいし、やる気がでます。

責任を押し付けるのとは別次元のはなしです。

 

どこぞの悪徳ブラック企業が中間管理職に役職をエサにして仕事の責任の押し付けをしているらしいが、それは言語道断だ。

 

そうではなく、あなたが会社のために加工方法の改善や工具の導入を提言すると、会社としても協力してくれるようになる可能性が大きいし、そうすることで、加工効率が大幅に改善されたり、それまでできなかった加工ができるようになるときっとあなたも喜びを感じるはず。

もちろん、会社として収益の上がることに貢献できたあなたへは給与という面で還元してもらえる権利はあるし、きっと還元してもらえる(ブラックでなければ)。

 

そういう相互に有益な関係を築くのが、部品加工従事者としての本当の目標です。

 

一人前の部品加工者と誰からも呼ばれることを目指すのは良いのですが、それが本質かといわれると少し違う。

あくまでも、あなたは会社の戦力として十分に力を発揮できるようになることが目標だ。

会社がそう認めた段階で、あなたは一人前と呼べると私は思っている。

 

技術面では工作機械や工具、切削油などの進歩もあるので、常に磨き続けるしかないのだ。

 

 

会社が新人さんに一番恐れていること

 

最後になかなか部品加工の腕前が上がらないし、しんどいなぁと悩む新人さんに会社経営をする立場から言葉を贈って終わりにしよう。

 

会社の経営者が最も従業員さんに対して恐れていることがある。

 

それは、仕事の手の遅さでもない。

給料アップのデモでもない。

五月病でもありません。

 

一番恐れているのは、あなたの怪我です。

 

従業員さんが機械操作で誤って怪我をしてしまうことが最も怖い。

人は礎と言いますが、たとえあなたの手が遅くとも、いなくなればゼロです。

あなたはかけがえのない会社の戦力・家族なのです。

 

短絡的にしんどいから辞めたいなんて思って、嫌々仕事をしていると不注意がもとで怪我につながる可能性がありますので、十分気をつけてください。

金属部品加工は殺人機械を目の前にしていると頭の片隅に常に置いて作業しなければなりません。

 

あなたに前途ある未来をお祈りします(*^_^*)

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