どうやったら、商売がうまくいき、儲かるのかが年中課題である町工場で働く Akimaru です。
私の仕事は金属部品加工が主体ですが、昨年よりずっと部品加工の ”量” で苦慮させられることが増えてきており、打開策を考え中なんです。
基本的には、自社では単品の部品加工を請け負っているので、数10個とか、数100個、1000個以上の数の部品加工を相談されると、社内ではさばけない。。。
いや、できるんですよ。
やろうと思えば。
でも、お客様は1社ではなく複数社あるので、まんべんなく対応しようと思ったら、たった1種類の部品を大量に1か月以上かけて作ることはできないのです。
そもそもが、そういうコンセプトで社内加工を受けていませんから。
単品屋なんですよ。うちの社内は。
でも、そんなことも言ってられないのが世の常というもので、大量生産しないといけないものだって協力会社さんの力を借りてでも対応していかなきゃいけないのです。
問題は、大量生産と単品加工の受注では、何かにつけて勝手が違うということ。
改めて、大量生産の案件相談を受けて動いていれば見えてくるものもあり、考え方も変えないといけません。
あなたは、量産ってどんな意味を持ち、どんな概念であると思いますか?
単純に、とにかく大量につくることを「量産」と呼ぶのではないぞと知人に教えてもらったことをまとめてみようと思う。
野菜の量産の典型は ”もやし” です
先日、仕事帰りの夜遅くに自宅近くを車で通ったとき、ドン・○ホーテの店の看板が目に入った。
ふと、目をやると「もやし 1袋 10円!!」という広告が大きく書かれてあった。
その時は「やっぱり、もやしは安いなぁ」「あんな値段で利益でるんやろうか?」「農家さん大変やろうに」としか思わなかった。
だけど、もやしってどこの店に行っても「安い」の代名詞みたいになっているよね。
だいたい、1袋10~30円くらいで、年がら年中安定した低価格を維持している。
これは正直、異常だと思った。
普通の野菜は、季節によって価格は変動するし、大きな自然災害があると極端に収穫量が減るため、非常に高騰する。
なのに、もやしは雨が降ろうが、雪が降ろうが、熱かろうが寒かろうが常に低価格だ。
野菜というくくりの常識で考えたらあり得ないと思いませんか?
こりゃ、きっと農家は涙を飲みながら貧困生活を強いられているのではなかろうかと心配にさえなってくるのだが、実は違うということを最近になって知った。。。。
”もやし農家” で食っている人なんていません
もやしは野菜の中でも特別な存在です。
貧乏学生や給料前の金欠庶民の強い味方です。
でも、これだけ通年で安定した安さをキープできていることに疑問を感じたことがある人は必ずいるはず。
ましてや、たった1袋を売ったところでどれだけの利益(儲け)が出るのか不思議で仕方ないところです。
だけど、そんな余計な心配は不要であることが分かりました。
もやしって、個人で専門に栽培している農家さんはほとんどいないということです。
もやしは、工場で大量生産するものなんだって。
だいたい、もやし1袋が10~30円だけど、そこには運搬費用や袋代、それらの販売にかかる人件費などが必要になるわけで、専属のもやし農家さんがいたとしたら、もやしをいくらで卸しているのだろうかって思ってしまいます。
超薄利多売でいかないとダメな世界です。
なので、もやしは個人で栽培するものではなく、工場で大量生産するものなのだ。
もやしの栽培は他の野菜と違い特別だから大量生産できる
もやしの栽培は非常に独特です。
原料となる豆に水を吸わせたあとは、一定温度の暗室で4~5日程度ほったらかしにしとくだけ。
勝手に発芽して出来上がる。
自宅でも簡単に作ることができる。
- 人手がかからない
- 短期間(4~5日)で大量にできあがる
- 日光が不要なので、天候に収穫が左右されない
- 肥料も土もいらない、必要なのは少量の水のみ
こういった大量生産を可能にする諸条件が揃っているのが、もやしの強みだ。
他の野菜は、土が必要だったり、天候によって収穫量も大きさ(出来栄え)も時々によって変化します。
でも、もやしは工場内の温度と水さえコンピューターで管理すれば常に一定の品質で出来上がる。
見方を変えればもやしのデメリットは、こうした大量生産ができてしまうこと。
生産コストとして栽培に様々な費用がかからない。
原料となる豆だって、中国から大量に安価に仕入れているのがほとんどです。
だから、販売店であるスーパーなどの仕入れ原価は超がつくほど安いのです。
もしも、もやしで儲けようと思うなら、常に絶やさずもやしを大量に作り続ける生産ラインを構築しないといけない。
そして、常に大量にスーパーに卸し続けなければならない。
常に動き続けないと、十分な利益が出ないのだ。
これが、儲けるためのデメリットとも言える。
部品加工における「大量生産」の意味・定義
大量に安価に生産され販売されるもやしを見て、私の仕事でもある金属部品加工においても共通点は多い。
金属部品の加工は、1つ1つ人が削って作り上げていくと、非常に高価なものになる。
現在、自動車は安いものなら100~200万円程度で新車が買える。
無駄を省けばもっと安く買えるかもしれないが、もしも、自動車に使われる部品1つ1つを人間が削ったりして作っていたなら、絶対にそんな金額では販売されません。
きっと、1000万円は軽く超えるものばかりになるだろう。
もう、手が出せない金額になる。
日頃、私たち町工場が請け負う部品加工の仕事は、ある商品を大量に生産するための機械の部品であったり、その機械を作るための機械の部品だったりもします。
消費者が手に取って使うモノは、ほとんどが何らかの機械によって大量に生産されたものが含まれる。
モノを大量に生産するためには、大量に生産するための機械がいる。
私たち町工場の多くが主にお客様としてしているのは、出来上がる製品に対して2次、3次的な関わりを持つメーカーなのです。
もやしで例えるならば、大量にもやしを作るための放水設備を作るための機械部品。
原料の豆を梱包するための機械の部品など、脇役に徹するのがほとんどの町工場です。
だから、私のように脇役となる部品の単品加工をメインに請け負う町工場で働く者にとっては、量産の定義・意味から仕事の関わりを考えなおさないといけないのだ。
量産するという定義
脇役である機械をつくるための機械の部品くらいまで階層が下がると、そういった部品は大量に必要とされない。
ちょっとでいい。
極端な例だが、1台の機械(1個の部品)で100台の新しい設備が作れる場合、10,000台の設備を作るためには機械部品は100個の部品があればよいわけです。
もやしのように安売りしなくても、そのたった1個の部品が100倍以上の生産性を供給する場合だってあるからだ。
余談ではあるが、よく町工場に個人で部品加工を依頼する時に、加工値段を小売店で販売されている商品の値段と比べる人がいるが、比べる対象を間違えている。
だが、こうした機械を作るための機械の部品という少量の部品製造と違い、数万、数十万個というパーツを実際に削っている会社もある。
だが、それらの会社は私たち単品屋とは「金属加工」という同じ業種にありながら、全く違う世界に住んでいるのです。
もちろん、工場で使用している機械設備も種類が全く違う。
半自動で部品を製作していることが多く、加工単価も桁が変わる。
単品屋の加工では加工代が1個1万円とか、10万円なんてのも普通にある。
でも、1万個や10万個の数の製品を作る会社での加工単価は数円~数百円くらいまでである。
私も月産10万個レベルの加工図面を引き合いで頂いた時には、加工代の差にびっくりしたのを覚えている。
本当に、この品物をこんな価格で加工できるの!?と加工方法を聞いたくらいです。
ま、結局は使用する機械設備が違うからなんですけどね。
話が脱線してしまったが、じゃあ「量産」という定義・意味は何か?と考えた時、あいまいに大量に専用の機械でものを作ることを量産とするならば、何個から大量と呼べますか?と以前、知人に聞かれた。
私は言葉に詰まったね。
1000個くらい?
そう思ったのだが、とある会社ではそれは量産ではないらしい。
むしろ、少ないんだって。
1万個でも少ないというレベルだそうです。
でも、うちの会社にとっては、1000個でも量産やん!と認識してしまう。
そう、量というのは持っている生産設備や生産方法によって「多い」「少ない」の受け止め方が変わるのだ。
量産の意味は「大量に作る事」かもしれないが、定義ではないようです。
知人によれば、量産の定義は先ほどのもやしの定義が当てはまるらしい。
人手がかからず、自動で一定量以上を継続的に生産することを量産と呼ぶらしい。
それが、100個であろうが1万個であろうが、一定期間にそれだけを自動で生産することができれば量産らしい。
彼曰く、1万個に比べると、100個は非常に少ないけれど
「100個しか作れない」のではなく
「100個も作れる」のだ。
もしも、その100個を自動ではなく、手作りで製作したら数百倍の時間がかかるかもしれないでしょってことらしい。
なるほどな。
数に惑わされてはいけないのだね。
大量生産は儲かるのか?
結局、私たち商売人にとって、仕事の最も大事な意義が儲けることです。
お金を稼げなければ、それは仕事ではありません。
プライドだけでも、善意だけでも物は作れない。
作った物をお金と引き換えに渡せるから、私たち町工場の人間は生きていけるのだ。
じゃあ、大量の部品加工をすれば儲かるのか?
答えは半分イエスだ。
たとえ数十円の単価であっても、数十万個を1か月で生産できれば、大きな利益が出る。
だけど、儲けるための条件を忘れてはいけない。
人手をとにかくかけずに、自動でバシバシ生産できること。
作る製品に対して常に需要があることだ。
例えば、自動車関連の大量部品は3年契約など、長期継続生産を必要とする場合が多い。
異分野では10年契約なんてのもある。
問題は最初の値段設定(見積もり)を1円でも間違えると、後で大変なことになるという、価格に超シビアな世界であるということ。
単品加工屋からしてみれば、1000円の見積もりミスがあったとしても他の仕事で取り返せばええか~って切り替えができる。
でも、量産って数年契約とかあるわけで、月産10万個の部品を作る仕事でたった1円の見積もりミスをしただけで月当たり10万円の損失が出る。
10円の見積もりミスは100万円の損失。
年間にすればえげつない金額です。
それが複数年契約だと・・・・
量産の世界では、梱包費用、運搬費用、イニシャルコストなど、緻密に計算しないといけません。
1個10円の利益をとれば、月あたり100万円の利益が出るな~。
ウっシッシ!と適当に計算して皮算用するのは早計である。
当たればデカいが、そうでもない時もある。
商社のように、大量生産の仕事を右から左でペーパーマージンをとる場合に、利益としてどれくらい抜くかも慎重に考えないとダメです。
1円、10円の見積もり差で仕事が決まる決まらないが分かれます。
A社 : 単価15円
B社 : 単価14円
C社 : 単価14.5円
三社見積もりをした時に、こんな感じで見積もり単価が出たらB社で決まり。
もしも、単品加工の仕事だったら、この価格差やったらどこでもええわ!ってなりますけど、月産10万個の場合は、1円違えば年間120万円の差が出るわけですしね。
過去に何度も数円単位の差でライバル会社に見積もり価格で負けた経験があります。
慣れない領域の仕事ですけど、本当に利益として何円取れるか判断が難しいのです。
今は、いつか当たりくじを引けるまで、頑張って量産案件に取り組むしかなさそうです。