SUS303とSUS304の違いを徹底比較!用途・加工性・価格の選び方

材料

SUS303とSUS304、見た目はそっくりなこの2つのステンレス材料、実は「用途」や「加工性」「価格」において明確な違いがあることをご存じでしょうか?

図面に「SUS304指定」と書かれていても、「SUS303で代用できるのでは?」と迷うことはありませんか?加工現場や設計現場でこのような疑問に直面する機会は意外と多く、間違った材質選定が品質やコストに影響を与えることも。

この記事では、SUS303とSUS304の成分の違いからくる「耐食性」「機械加工性」「磁性」の違いまでをわかりやすく解説します。また、それぞれの材質がどんなシーンに向いているのか、用途別の選び方のポイントもご紹介。 違いを正しく理解して、最適な材料選定に役立てていただければ幸いです。

 

SUS303とSUS304はどちらもステンレス。でも何が違う?

SUS303とSUS304はどちらもステンレス。でも何が違う?

まずはSUS303とSUS304の「見た目」「重さ」「磁性」といった基本的な外観・物理特性から、どれほど違いがあるのかを見ていきましょう。結論からいうと、これらの違いは非常にわかりにくく、現場でも間違いやすいポイントです。

 

見た目や重さに違いはない

SUS303とSUS304は、どちらもJIS規格で「オーステナイト系ステンレス」に分類される代表的なステンレス鋼材です。主成分はともに鉄・クロム(Cr)・ニッケル(Ni)で構成されており、外観は非常によく似ています。

見た目は銀白色の金属光沢を持ち、表面加工が同じ条件で施されていれば、外見だけで判別するのはほぼ不可能です。たとえば、バフ研磨やヘアライン仕上げを施した場合、肉眼では区別がつかないことがほとんどです。

また、密度についても違いは微々たるもので、SUS303が約7.82g/cm³、SUS304が約7.93g/cm³とわずかに異なるだけです。この差は精密な電子天秤で測定しなければ実感できないほどで、部品の重量感や手触りから判別するのは事実上困難です。

ちなみに、JIS規格においても両者の寸法公差や外形に関する規定は共通しており、製品単体での識別を間違える事例が実際に報告されています(JIS規格公式サイト)。

 

磁石にもつかない両者の共通点

次に、磁性の有無に注目してみましょう。ステンレス材料を選定する際、「磁石につくかどうか」は現場で簡易的な識別に用いられることもありますが、SUS303とSUS304においてはどちらも基本的に非磁性です。

その理由は、両者がオーステナイト系ステンレスであるためです。オーステナイト組織は鉄の結晶構造が「面心立方格子」であり、これにより磁性を帯びにくい特性を持っています。常温では磁石が吸着しないことが多く、磁力検査で見分けるのは困難です。

ただし例外として、SUS304については加工硬化が起きた部位、たとえば冷間加工された部分では、一部に磁性を帯びることがあります。これはフェライト相が一部形成されるためで、精密な機能部品を扱う際には注意が必要です。

逆にSUS303は、加工時にも比較的磁性の変化が少ないため、磁気特性の安定を求める用途で採用されることもあります。たとえば磁気センサー周辺や非磁性要求のある医療機器部品などがその一例です。

このように、見た目・重さ・磁性という基本的な性質だけでは両者を明確に見分けることは難しく、用途や性能要求に応じた材質選定が必要不可欠であることがわかります。

 

>>>磁石が付かないはずのSUS304が磁化してしまう理由と対策方法

 

一番の違いは「切削性」!加工者が選ぶならSUS303?

一番の違いは「切削性」!加工者が選ぶならSUS303?

外観や磁性では見分けがつきにくいSUS303とSUS304ですが、加工の現場では「削りやすさの違い」が大きな分かれ道になります。ここでは、SUS303がなぜ加工性に優れているのか、その根本的な理由を掘り下げてご紹介します。

 

なぜSUS303の方が削りやすいのか

切削加工のしやすさ、いわゆる「被削性」において、SUS303はSUS304よりも明らかに優れています。実際にマシニング加工や旋盤加工を行った場合、工具寿命や加工スピードに明確な差が現れます。

たとえば、同一の切削条件でSUS303とSUS304を加工すると、SUS303はSUS304に比べて20〜30%程度、加工時間を短縮できるケースが多く報告されています。理由は、SUS303に意図的に添加された硫黄とリンによって切りくずが割れやすく、排出がスムーズになるためです。

さらに、SUS304は強靭さがある一方で、切削中に焼き付きを起こしやすく、刃先への負担も大きくなります。工具のチッピングや摩耗の進行も速く、切削コストの増加につながるのが悩みのタネです。

>>>エンドミルのリード角と用途の関係(ステンレス加工には重要)

 

硫黄とリンが加工性に与える影響とは?

そもそも、なぜ硫黄やリンを添加すると被削性が向上するのでしょうか?ここには金属の組織学的な理由があります。

SUS303では、添加された硫黄(S)マンガン(Mn)と結びついてMnS(硫化マンガン)という硫化物を形成します。これが金属組織の中に微細に分散することで、切削時に局所的な破壊が起こりやすくなり、結果的にスムーズな加工が可能になるのです。

また、リン(P)も金属の延性(ねばり)を低下させ、切削時にバリや溶着が発生しにくくなります。この特性は、特に小径のネジ加工や高回転のエンドミル加工において効果を発揮します。

ただし、これらの元素は本来、鋼材において不純物として扱われる成分でもあります。加工性向上と引き換えに、後述する耐食性や溶接性が低下するというトレードオフがあることも忘れてはなりません。

 

チップブレーカーとしての働きとは?

加工者が「削りやすさ」を感じる背景には、実は切りくず(チップ)の性質が大きく関わっています。その中でも重要なのがチップブレーカーの働きです。

工具の先端には、細かな溝や段差が施されています。これがチップブレーカーと呼ばれる構造で、切りくずが一定の長さで折れるように設計されています。長い切りくずは加工物に絡みついてキズや寸法不良、工具破損の原因にもなりますが、ブレーカーの効果でそれを防ぐことができます。

ところが、SUS304は粘りが強いため、いくらチップブレーカーを工夫しても切りくずが伸びやすく、ときには加工者の安全を脅かすことも。対してSUS303は、硫黄やリンの効果で切りくずが自発的に短く折れるため、工具設計の自由度も高く、作業効率の向上につながります。

特に、自動盤や量産加工ラインなどでは、チップ処理のしやすさが生産性を大きく左右するため、SUS303の優位性が際立つポイントとなります。

 

SUS303の加工性の高さと引き換えに失うもの

SUS303の加工性の高さと引き換えに失うもの

SUS303は非常に優れた加工性を持つオーステナイト系ステンレスとして知られていますが、その性能は他の特性を犠牲にすることで成り立っています。ここでは、SUS303の構成元素がもたらす耐食性の低下溶接不適性、さらには構造的な脆さについて詳しく解説します。

 

耐食性の違いと偏析のリスク

SUS304と比べて、SUS303は耐食性において明確に劣ります。これは、SUS303に添加されている硫黄(S)やリン(P)が原因です。これらの元素は、被削性を高める一方で、鋼材内部に偏析を引き起こしやすく、局所的に腐食や割れが発生する要因となります。

たとえば、塩水噴霧試験においては、SUS303の試験片が24時間以内に点状腐食を示すのに対し、SUS304は72時間経過しても腐食の兆候がほとんど見られないというデータもあります。

偏析とは、材料内部で特定の元素が局所的に集まりやすくなる現象です。硫黄やリンは鋼の凝固中に固溶しにくく、境界部に蓄積されるため、腐食セルを形成しやすくなります。特に食品機器や屋外構造物など、耐久性と衛生性が求められる場面では、SUS303の使用には慎重な判断が求められます。

 

SUS303が溶接に向かない理由

SUS303が溶接不向きとされる理由も、硫黄やリンの存在にあります。これらの元素は、溶接時に凝固割れ(ホットクラック)を引き起こしやすく、接合部の信頼性を著しく低下させます。

一般に、オーステナイト系ステンレスは溶接性が良好とされていますが、SUS303に限っては事情が異なります。溶接後、接合部周辺に脆弱な金属間化合物が形成されるリスクが高く、その結果、溶接部からの破断が生じやすくなります。

また、硫黄の酸化によってSO2(二酸化硫黄)などの気体が発生することもあり、アーク溶接では気孔(ブローホール)が発生しやすくなります。これにより、外観品質だけでなく、内部欠陥による強度低下という問題も避けられません。

そのため、SUS303を使用する場合は溶接を避けて機械的接合(ネジ止めやリベットなど)を選ぶのが現場の基本的なセオリーです。

 

SUS303の脆さがもたらす注意点

SUS303は被削性を得るために延性・靱性をある程度犠牲にしており、割れやすさという弱点を抱えています。

具体的には、衝撃荷重のかかる部品や繰り返し応力を受ける構造体には適していないケースが多く見られます。たとえば、回転軸や支持部に使われた場合、数十万回の繰り返し荷重によってマイクロクラックが発生し、それが破断の起点となる可能性があります。

実際、JIS G4303によるとSUS303の引張強さは520N/mm²程度と比較的高いものの、伸びや絞り値はSUS304よりも大きく劣ります。この差は、「粘りのある強さ」ではなく「脆さを伴った硬さ」であることを意味しています。

このように、加工しやすいからといってどんな用途にもSUS303を適用するのは危険です。材質選定の段階で、使用環境や負荷条件をよく検討し、必要であればSUS304や他の鋼種への置き換えも視野に入れるべきでしょう。

 

価格の違いは?流通量と市場ニーズの背景

価格の違いは?流通量と市場ニーズの背景

加工現場では「SUS303の方が削りやすい」という評価を受けながらも、市場ではSUS304の方が安価で広く流通しています。ここではその背景にある価格構造市場動向を、流通量と材質特性の視点から読み解きます。

 

なぜSUS304の方が安く流通しているのか

見た目は似ていても、価格面で優位にあるのはSUS304です。その理由は単純に流通量と需要の多さにあります。

日本国内のオーステナイト系ステンレスの総消費量のうち、SUS304が占める割合は約70%以上とされており、ビルの外装や厨房設備、産業機器、食品加工装置など、多くの業種で使用されています。

大量に生産されるということは、素材価格が安定し、メーカー側でも在庫管理やロット対応がしやすいという利点が生まれます。鋼材商社や仕入れ先にとっても扱いやすく、結果として市場全体で価格競争力がつきやすくなるのです。

また、SUS304は食品衛生法にも適合しやすく、耐食性・溶接性にも優れるため、汎用材としての評価が高いのも特筆すべき点です。大量需要と安定供給が循環し、価格面での強さにつながっています。

 

SUS303の価格が高くなる理由

一方で、SUS303加工性の高さから一部の業界で強く支持されていますが、価格面ではSUS304よりやや高価になる傾向があります。

その主な理由は合金成分の違いです。SUS303には硫黄やリンといった被削性向上を目的とした元素が添加されており、これが製造工程において微調整や鋳造条件の最適化を必要とします。

たとえば、MnS(硫化マンガン)を均一に分散させるには精密な成分管理が不可欠で、結果として製造コストが上昇します。さらに、加工性向上のために施される微細組織制御や焼鈍処理の頻度も多くなり、材料単価に反映されるのです。

また、SUS303は使用用途が限られているため、SUS304のような大量生産が難しく、在庫量も限定的になりがちです。鋼材の価格はスケールメリットに強く依存するため、この供給制限も価格上昇の一因となります。

たとえば、2024年時点の関東地区での市場価格比較では、SUS304丸棒Φ20mmがkgあたりおよそ450〜500円に対し、SUS303は約500〜550円が相場となっています(流通業者ヒアリングベース)。

加工性に優れる分、材料価格が高くつく。これがSUS303の「性能と引き換えに支払うコスト」であり、用途とコストのバランスを考慮した材質選定が求められる理由でもあります。

 

使い分けの判断基準は「用途」にあり

使い分けの判断基準は「用途」にあり

SUS303とSUS304は、見た目が似ていても性質や適した用途が大きく異なります。どちらを選ぶかによって加工性・耐食性・溶接性・価格など、実際の製品性能やコストに影響が出るため、用途に応じた正確な判断が重要です。

 

SUS303が向いている用途とは(摩擦部品・切削加工部品)

SUS303は、硫黄やリンを添加することで切削性が非常に高いことが最大の特徴です。そのため、高速切削加工が求められる部品や、複雑な加工が多い精密部品に向いています。

たとえば、自動旋盤で大量に加工するシャフト・ピン・ナット・スペーサーなどの精密機械部品では、加工性の高さが生産性を大きく左右します。実際、SUS303はSUS304に比べて工具寿命が20〜30%長くなるケースもあり、加工コストの削減にもつながります。

また、切りくず処理がしやすくバリが出にくい特性もあるため、高精度が求められる摺動部品や、摩耗を避けたい機構部にも適しています。ただし、耐食性や溶接性はSUS304に劣るため、水回りや屋外用途には基本的に不向きです。

 

SUS304が向いている用途とは(溶接構造物・耐食環境)

SUS304は、耐食性と溶接性に優れたステンレス鋼として、建築・食品・医療・化学といった幅広い分野で使用されています。最も特徴的なのは、クロム18%+ニッケル8%の化学組成によって、酸化・腐食に強い点です。

たとえば、厨房のシンクや調理器具、プラント配管や薬品タンクなど、錆びにくさが重視される場所では、SUS304が第一選択になります。また、溶接後の割れや変形が起こりにくいため、構造体の溶接部品としても非常に重宝されます。

衛生・耐薬品・耐候性が必要な用途では、SUS304を選ぶのが基本です。

 

図面にSUS303指定がある場合の意図とは?

図面上に「材質:SUS303」と明記されている場合、その背後には明確な設計意図があることが多いです。特に高速切削・自動盤加工・摩擦軽減など、加工性や表面品質が要求されるケースが中心です。

設計者があえてSUS303を指定する背景には、加工現場での工具摩耗低減や切削時間短縮への配慮が含まれている可能性があります。たとえば、同一部品を1万個量産する場合、加工性の差が累積的に大きなコスト差となって表れるためです。

また、SUS303は切りくずの処理が安定しているため、無人加工や夜間運転などの自動化ラインでもトラブルが起きにくくなります。つまり、図面にSUS303と書かれていたら、単に「似た材料だからSUS304で代用」と考えるのではなく、設計思想に沿った選定かどうかを再確認する必要があります。

 

まとめ|SUS303とSUS304の違いを活かす選定眼を持とう

見た目の違いこそ少ないSUS303とSUS304ですが、その性能差や適正用途の違いを正しく理解して使い分けることが、製品品質の安定とコスト管理の両立に直結します。ここでは最後に、主要な比較ポイントを整理しながら、適切な材料選定のためのヒントをご紹介します。

 

比較表:用途・加工性・耐食性・価格の一覧

以下は、SUS303とSUS304の違いを一目で把握できるように性能ごとの比較表にまとめたものです。現場での判断や提案資料作成にも役立ちます。

項目 SUS303 SUS304
主な用途 ねじ、軸、機械加工部品、摩擦部品 構造体、厨房設備、溶接製品、耐食機器
加工性 非常に高い(切削性が良い) 中程度(焼付きに注意)
耐食性 やや劣る(偏析による腐食リスク) 非常に高い(食品・水回りにも対応)
溶接性 不向き(凝固割れのリスク) 優れている(溶接構造物向き)
価格(参考) やや高い(kgあたり500〜550円) 比較的安価(kgあたり450〜500円)
流通量 少なめ(専門ルート中心) 非常に多い(標準材として常備)

※価格は2024年時点の関東圏業者調査に基づく参考値です。

 

材料選定でミスしないためのポイント

現場で材質を選ぶ際、見た目や一時的なコスト差に惑わされると重大なトラブルにつながることもあります。そこで、以下のような判断基準を明確にしておくことが重要です。

まず、加工性を最優先する場面(自動盤・大量切削)では、SUS303が有利です。ただし、使用環境が湿気の多い屋外や食品機器など、耐食性が求められる場合は、迷わずSUS304を選ぶべきです。

また、図面に「SUS303指定」とあった場合は、設計者が加工性や摩耗特性を意識して指定している可能性が高く、むやみにSUS304へ変更するのは避けた方が無難です。逆に、材料の選定自由度があるときは、「用途・加工性・価格・溶接性」の4軸で整理することで、根拠のある提案・選定が可能になります。

さらに、実際の運用ではサプライヤーとの相談も非常に有効です。流通在庫や納期、最小ロットの違いによって、実質的な選定条件が変わることも多いため、材料知識だけでなく調達力も現場の武器となります。

このように、性能だけでなく市場性・在庫性まで含めて選定できる視点が、これからのものづくりには欠かせません。SUS303とSUS304の違いをしっかり理解し、適材適所で選定眼を発揮することが、品質・コスト・納期の最適化につながります。

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