「浸炭焼入れ」これって普通の焼入れと何が違うの?簡単に説明するよ!

熱処理

金属加工のことに少し興味が湧いてくると、部品加工の依頼をしようとするときに頭をよぎるのが

焼入れ(焼入れで鋼が硬くなる理由

摩耗が激しい部分などに使う部品だと、どうしても金属に硬さが欲しくなるものですよね。

 

金属の多くは加熱処理することによって、硬度を上げることができ、これを熱処理(ねつしょり)と呼びます。

ただし、金属は熱処理によって硬くすると靭性(粘り)というものが低下するので、折れたり、割れたりしやすくなります。

 

そこで考えられた焼入れの方法の1つが、浸炭焼入れなんです。

金属の表面だけを硬く耐摩耗にすぐれた硬さに仕上げ、内部(深部)は靭性を保ったままにできる焼入れです。

 

折れると困る機械のシャフトなどにもよく利用される焼入れ方法ですね。

ここでは、よく浸炭焼入れに使われる材料と使われない材料の違いを簡単に説明します。

リブデン鋼(SCM)材の浸炭焼入れ

一般的によく浸炭焼入れをする材料にクロムモリブデン鋼というものがあります。

俗にクロモリと呼び、表記はSCM材

 

なのですが!

専門の加工屋さんでもよく間違えるのは、クロモリなら何でも浸炭焼入れすると思っていることです。(ガックリ!)

クロモリ(SCM)材にも種類があり、浸炭焼入れをするものと、しないものがあるのです。

有名なクロモリ材と成分比較

SCM材の中でもよく使われるのが4種類。

SCM415、SCM420、SCM435、SCM440

成分比較をしてみましょう。(数字は%単位です)

クロモリ成分

クリックすると拡大します。

4種類あるけど、ほとんど同じやん!

そう思うでしょう。

 

そうなんです、ほとんど同じなんです。

でも、大きく違うのが炭素の含有率です。

クロモリ成分

この赤枠の部分ですね。

 

炭素の含有率の違いによって、SCM415、SCM420 と SCM435、SCM440 の2グループに大別できます。

SCM415の代用品として、SCM420は使用することはありますけど、SCM440を代用するということはまずありません。

もしも、あえて変更するならば熱処理の方法が変わりますので。

浸炭焼入れをするクロモリ材はSCM415とSCM420

これらの代表的なクロモリ材の内、浸炭焼入れをするのはSCM415SCM420です。

炭素含有率が低いグループですね。

 

浸炭焼入れとは、元々炭素含有率の少ない金属(約0.2%以下が原則)の表面に炭素を添加して焼入れ・焼き戻しをする熱処理方法のことです。

 

何故、炭素を添加するのかといいますと、使用する金属(合金)を知る必要があります。

次にその意味を簡単に説明しましょう。

ちなみに、SCM材以外にもSNCM材も同じように浸炭焼入れするものがありますが、SCMとSNCMの違いについては別記事で説明しているのでどうぞ。

404 NOT FOUND
部品加工のことがわかるブログ

浸炭焼入れで炭素(C)を添加する意味

私たちが身の回りで使用している金属はほとんどが合金なのですが、鉄(Fe)と炭素(C)に加えてニッケル(Ni)やコバルト(Co)といったほかの元素が含まれています。

それらの合金のうち、炭素の含有量が多いものを炭素鋼と呼び、鉄(Fe)と炭素(C)だけが95%以上を占めており他の元素の含有量が少ないものを低合金鋼と呼びます。

 

この炭素鋼と低合金鋼の熱処理による金属硬化は合金に含まれる炭素の量の影響を強く受け、炭素の含有量が増えるほど硬くなります。

ただし、炭素の含有率が0.6-0.8%を超えると逆に熱処理による金属構造の変化が安定しなくなり、十分な硬さが得られなくなります(専門的には残留オーステナイトが増加すると言う)。

とりあえず、炭素量が増えると熱処理でより硬くなるんだな!って覚えておけばOK。

 

ここで、浸炭焼入れに話を戻します。

浸炭焼入れは元々炭素量が少ない金属に後から炭素を添加して熱処理をすることで、表面の硬さを得る方法です。

炭素の添加は金属の深部までは届きませんので、表面上だけにとどまります。

 

つまり、炭素量が多いSCM435やSCM440に浸炭焼入れはナンセンスなんです。

何故か分かりますよね。

 

浸炭焼入れは炭素を添加後に焼入れ・焼き戻しをしますので表面は固く、内部(深部)は柔らかくという状態が作れないのです。

浸炭焼入れのメリットを丸潰しにしてしまいますので、それなら高周波焼入れでええやんけ!となるのです。

高周波焼入れとは表面の浅い部分だけを熱処理する方法で、炭素の含有率が高い合金(炭素鋼)などの表面だけを硬くするのによく利用します。

浸炭焼入れで中は柔らかく(靭性がある)、外は固くするメリット

先ほどにも少し書きましたが、シャフト、ニッパー、バリカンなどにも利用される熱処理が浸炭焼入れです。

浸炭焼入れは表面しか硬くなりませんが、その最大のメリットは折れによる損傷が抑えられること。

金属は固くなればなるほど、粘りが低下します。

要するに割れやすいんです。

 

えっ!?

金属って割れるの!!

驚き

そうビックリされる方も多いですが、割れます。

バリバリに割れます。

ホームセンターで売っている金槌で叩いても、硬い金属は割れます。

 

逆に硬くない金属は割れずに凹みます。

「鉄は熱いうちに打て」というのは、熱した鉄を冷ますと硬くなるからで、叩くと割れるからですね。

もともとは、英語の言葉を訳したことわざらしいです。

英語の「Strike while the iron is hot.」を訳したことわざ。
鉄は熱してやわらかいうちには、打っていろいろな形にできることからいう。
人間も、純粋な心を失わず、若く柔軟性のあるうちに心身を鍛えることが大事である。
また、物事をなすときにも、熱意が盛り上がっているうちに実行することが大事であるということ。

金属同士のすり合わせの部分や刃物などに使う場合には、必ずといってよいほど熱処理をしてある程度の硬さを保たないと、継続して使用できません。

 

ところが、金属深部まで硬くしてしまうと衝撃に脆くなってしまうので、表面だけを硬くするのです。

この条件を満たせるのが浸炭焼入れのメリットです。

 

さらにSCM415やSCM420は調質材といって、あらかじめ熱処理をして少し硬くしている材料があります。

SCM415H、SCM420Hと書き「丸エイチ(H)材」と呼びます。

これらを使用すると、通常よりも内部は少し硬く靭性もあり、表面はカチカチに硬くできます。

浸炭焼入れのまとめ

本当にざっくりと書きましたが、こんなところです。

実際に浸炭焼入れをする金属は、ここで紹介したSCM415、SCM420、S15C、S25Cなどが多いですね。

 

推奨はやはりSCM415、SCM420です。

もしも、金属の表面を硬くしたいというのであれば、こうした処理方法も加工屋さんに問い合わせしてみても良いかもしれません。

タイトルとURLをコピーしました