鋼に含まれる炭素量が多いと溶接割れが起こりやすい
そんな事象について聞いたことがあるけれど、なんで?と疑問に思っている人に本記事では理由を説明します。
炭素は金属を硬化させる要素の1つだから
そもそも、金属が割れてしまうというのは、その金属に柔軟性が無いからですね。
柔らかいふにゃふにゃの金属があったとしたら、その金属って割れはしないで曲がりますよね。
じゃあ、金属が曲がりに堪えらえずに割れるほど硬くなるのはどういう状況かと考えてみましょう。
答えは熱処理です。
要するに金属を熱処理して硬度を上げる作業と同じことが溶接した部分で起こっているとイメージしてください。
熱処理で鋼が硬くなる理由(オーステナイトとマルテンサイト)の記事で詳しく書いているのでここでは熱処理の原理についての言及は割愛しますが、炭素量がある程度含有されていないと熱処理しても金属は硬くならないです。
逆に炭素量が多いと熱処理で硬くなり脆くなるということ。
金属を柔らかくする焼きなましなどとは違うので注意です
ということで、溶接に使用する鋼材としては炭素量が少ないSS400、S10C~S20C、ステンレス(SUS304など)、アルミ(7000番系など一部のアルミは溶接に向かない)などが多いです。
炭素含有量が多い鋼材の溶接は余熱が大事
炭素量が多い金属は溶接をすると溶接部分が硬くて脆くなるので割れるということが分かったけど、S45Cとかの溶接もあるぞ!という声が聞こえそうですね。
もちろん、炭素量が多い金属の溶接も皆無ではないです。
ただ、割れやすいということに変わりはないので、割れ対策を取らないといけません。
その対策というのが余熱です。
金属を硬くする熱処理では、ある一定の温度まで上げてから一気に冷却することを必要とします。
逆に言えば、熱した金属を急冷せずにゆっくりさませば硬くなりにくいということ。
なので、溶接前にしっかりと熱しておくと割れにくくなります。
余熱温度については、鋼材の種類や板厚などによって決めたりしますが40~150℃くらいとイメージしてもらえればOK。
一応、炭素量に応じた余熱温度の計算式はあるみたいですけど、経験則的なものである程度決めている会社が多いかと思います。
炭素以外に溶接割れを引き起こしやすい元素
炭素の含有量が0.3%を超えてくると溶接には不向きであるとされますが、炭素以外にも溶接割れを誘起する元素があります。
例えば、SCM材に含まれているようなクロムやマンガンなどがあります。
なので、クロモリ材は溶接は基本的にしませんし、刃物工具として使用されるハイス鋼や金型に使用されるダイス鋼も熱処理をして固くして使用することを前提に作られている金属ですから、基本的には溶接ません。