鉄(鋼)の錆びで「赤錆び」とか「黒錆び」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
その名の通り、錆びの色の違いで区別されていることは分かりますが、ただ色が違うというだけでなく錆びの成分も全く異なったものです。
「錆び」と聞いて真っ先に思い浮かべるのは
このような鉄(鋼)が錆びて赤茶色っぽくなるやつじゃないでしょうか。
これは赤錆びです。
赤錆びの主な成分は酸化第二鉄(Fe2O3)。
これはFe(鉄)がイオン化して酸素とくっついたものであり、この場合はFe(2+)の鉄イオンができていることになる。
ここで、中学生の頃に理科の時間で金属イオンのことを習ったのを少し思い出せたら思い出してほしい。
Fe(鉄)イオンは放出する電子(e-)の数によってFe(2+)とFe(3+)の2種類がある。
例えばこのような化学式
Fe → Fe2+ + 2e-
ところで、Feイオンから電子が取れるというのはどういう状況か?
それは電子を引っ張る相手分子がいるということです。
ちなみに、Feとその相手分子の間で電子の奪い合いが起こっているとイメージしてみた時、相手分子の電子を引っ張る力が強いとFeはFe(3+)になるし、それほどでもない場合はFe(2+)になる。
「2+」とか「3+」というのは、電子がどれだけ取れたかを示すものだと思えばいい。
基本的に常温常圧で、空気中にある酸素によってFeはFe(2+)にしかならない。
鉄はそれ単独では非常に不安定で酸素を取り込んで酸化鉄になろうとする。
というか、そもそも自然界にある鉄鉱石は酸化鉄だ。
我々が鉄として製鉄しているのは、大雑把に言えば鉄鉱石という酸化鉄から酸素を取り除いて「鉄」にしているに過ぎない。
なので、鉄は放っておくと自然に酸化する。
鉄の酸化(腐食)には乾食と湿食があります。
乾食は水のない状況で酸素と反応して酸化することですが、この酸化スピードは非常に遅い。
ところが、ひとたび水を加えた湿食では錆びるスピードが格段に上がる。
水が加わることで電気化学反応が起こっているんですね。
私たちが普段見ている「赤錆び」のほとんどは、鉄と酸素と水の反応なんです。
余談ですけど、塩水が真水よりも鉄を錆びやすくするという理由は主に2つ。
1つは塩の吸湿性。
乾いた鉄の上に塩をまぶすと、塩分が空気中の水分を吸湿することで鉄と水が反応しやすくなるから。
もう1つは、塩分によって通電性が上がるのでより電気化学反応は進みやすくなるからです。
塩そのものが鉄を錆びさせると勘違いしちゃいますけど、違うのでこの際に覚えておくといいかも。
sponsored link黒錆びは自然に発生しない?
鉄の錆びには赤錆びの他に黒錆びというものがあります。
黒錆はFe(3+)のイオンが作る酸化物で四酸化三鉄(Fe3O4)です。
赤錆の酸化第二鉄(Fe2O3)とは違い、強固で安定しているのが特徴です。
赤錆はもろくて、放っておくとやがて崩れてしまいます。
赤く錆びてボロボロに穴があいたトタン屋根とかを見たことがあると思いますが、そんな感じになる。
ここで強めに言っておきたいのは、基本的に常温常圧で、空気中にある酸素によってFeはFe(2+)にしかならないということです。
このように先ほどにも書いたとおり、日常的に自然発生する錆は赤錆です。
ところで、部品加工をしている人なら「四酸化三鉄」ってどこかで聞いたような気がしませんか?
これ、黒染めの被膜のことです。
黒染めはアルカリ水溶液の中に鉄(鋼)を入れて処理することで、金属表面に四酸化三鉄の被膜を生成します。
これによって、黒色に変色させて若干の防錆効果を期待することができます。
要するに、無理やり金属表面を錆びさせて、これ以上赤錆が出ないようにしているということですね。
人によっては、黒染めの防錆効果は気休めにしかならないと言います・・・
それは、使用するアルカリ溶液の電子(e-)の引張る強さに関係しているのかもしれませんが、酸化被膜がどうしても薄いからでしょうね。
注意したいのは、黒錆は自然発生しないということであり、黒染めもアルカリ溶液という鉄から電子(e-)を受け取りやすい液体に漬けているということです。
なので、Fe(3+)を作るためには化学溶液が必要ってことです。
黒染め以外にも、熱処理中に水蒸気を入れて金属表面にFe3O4を作る水蒸気処理(ホモ処理)というものもあるようです。
これによれば、黒染めよりも強固な四酸化三鉄被膜を作ることができ、防錆効果が高いとのこと。
気になる人は調べてみてください。