「切削液なんて、どれを使っても同じじゃないの?」
実はこの認識が、知らず知らずのうちに工具寿命を縮めたり、加工不良を引き起こしたりする原因になっていることがあります。切削液には明確な種類があり、それぞれに「得意な仕事」と「役割」が存在するからです。
本記事では、現場で広く使われている切削液を中心に、水溶性と不水溶性の決定的な違いや、加工内容に合わせた最適な選び方をわかりやすく解説します。
「今の切削液は本当に合っているのか?」と感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。
切削液の種類と基本的な違い

切削液とは、旋削・フライス・穴あけなどの切削加工において、工具と被削材の接触界面で発生する物理的・化学的負荷を制御するための機能性流体です。
切削加工中の刃先では、
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接触圧力:数GPa
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瞬間温度:700〜1000℃以上
という極めて過酷な環境が局所的に発生します。
切削液は、この過酷な環境下で以下の4つの役割を同時に果たしています。
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冷却作用: 発生した熱を奪い、工具が熱で柔らかくなったり変形したりするのを防ぐ。
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潤滑作用: 摩擦を減らし、切削抵抗や摩耗を抑える。
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洗浄作用: 切りくずをスムーズに洗い流し、噛み込みや再切削を防ぐ。
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防錆作用: 被削材や工作機械が錆びないように守る。
これらの性能のうち、「何を優先するか」によって、切削液は大きく「水溶性」と「不水溶性」の2つに分類されます。
水溶性切削液とは
水溶性切削液は、水を主成分とし、そこに油分・界面活性剤・防錆剤・極圧添加剤などを配合したものです。通常、水で5〜20倍程度に希釈して使用します。
最大の特徴は、比熱の高い「水」を利用した圧倒的な冷却性能です。 これにより、以下のメリットが生まれます。
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刃先温度の急激な上昇を抑える
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熱膨張による寸法誤差を減らす
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高速・高送り加工でも安定性を保つ
一方で、水単体では潤滑性が低いため、油分を乳化(エマルション化)させることで滑りやすさを補っています。 そのため水溶性切削液は、以下のような**「熱の発生」が課題となる加工**に適しています。
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アルミニウム合金
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一般構造用鋼(SS材・S45Cなど)
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高速回転・大量切削・量産加工
ただし、技術的な注意点もあります。
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適切な濃度管理が必要
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菌の繁殖による腐敗(腐る)リスク
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pH低下による防錆力の低下
このように、日々の管理が性能維持のカギとなります。
不水溶性切削液とは
不水溶性切削液は、水を含まず、鉱物油・合成油・エステル油などをベースとした切削液です(いわゆる油)。 最大の特徴は、優れた潤滑性能にあります。
刃先と被削材の間に強力な油膜(潤滑膜)を作り、以下のように作用します。
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金属同士の直接接触を防ぐ
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摩擦係数を大幅に下げる
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境界潤滑・極圧潤滑といった過酷な領域で性能を発揮する
特に、硫黄・塩素・リン系などの「極圧添加剤」を含むタイプは、高温・高荷重下で化学反応を起こして「耐摩耗皮膜」を形成します。これにより、以下の効果に大きく貢献します。
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焼き付きの防止
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工具刃先の欠損(チッピング)抑制
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仕上げ面粗さの向上
そのため不水溶性切削液は、以下のような**「潤滑」が重要になる加工**に適しています。
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難削材(ステンレス鋼、チタン合金など)
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低速・重切削
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高精度仕上げ加工
一方で、以下の側面には配慮が必要です。
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冷却性能は水溶性に劣る
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ミスト・臭気・引火性のリスクがある
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清掃の手間や作業環境への影響
安全管理と環境への配慮が、運用のポイントになります。
切削液の種類ごとのメリット・デメリット

切削液を評価する際、単に「冷える・滑る」といった感覚だけで選ぶのは危険です。切削温度・摩擦の状態・工具の摩耗の仕方・管理の手間などを総合的に見る必要があります。
水溶性と不水溶性では、加工を助けるメカニズムが全く異なるため、メリットとリスクも明確に分かれます。
水溶性切削液のメリット
水溶性切削液の最大の武器は、水が持つ高い比熱(約4.2 J/g・K)を活かした強力な冷却力です。 具体的には以下の効果が得られます。
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切削点の温度上昇を瞬時に抑える
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工具母材(超硬・ハイス)の熱軟化を防ぐ
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熱によるワークの膨張(寸法ズレ)を抑える
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高速・高回転加工でも安定する
また、バシャバシャと洗い流す力が強いため、切りくずの洗浄・排出性にも優れています。
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切りくずの再切削(二度切り)防止
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溝詰まりの解消
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刃先のチッピング防止
これらは特に量産加工において、工具寿命の延長とコストダウンに直結する大きなメリットです。
水溶性切削液の注意点・デメリット
一方で、水溶性は「管理の手間」が性能を左右します。主な注意点は以下の通りです。
① 腐敗・菌繁殖リスク 主成分が水であるため、放置すると腐りやすくなります。
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雑菌・嫌気性菌が繁殖しやすい
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腐敗臭(硫化水素臭など)が発生する
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作業環境の悪化や手荒れの原因になる
② 濃度管理の重要性 希釈濃度は「濃すぎても薄すぎても」問題になります。
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濃度低下: サビや潤滑不足の原因に
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濃度過多: 泡立ち、ベタつき、コスト増の原因に 特に、水分の蒸発や持ち出しによる減少を計算に入れないと、気づかないうちに性能が落ちてトラブルが進行してしまいます。
③ 潤滑性能の限界 油膜を作る能力はどうしても不水溶性に劣ります。
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低速重切削
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難削材加工 これらの条件では、摩耗や焼き付きが発生しやすくなります。
不水溶性切削液のメリット
不水溶性切削液の本質的な強みは、境界潤滑・極圧潤滑領域での安定した油膜形成能力です。 金属同士の接触を物理的・化学的に防ぐことで、以下の効果を発揮します。
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摩擦係数を大幅に下げる
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刃先の欠損・溶着(構成刃先)を防ぐ
特に極圧添加剤(硫黄・塩素・リン系)が配合されている場合、高温・高圧時に化学反応皮膜が形成され、さらに強力に刃先を守ります。
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焼き付きを強力に防止
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工具摩耗を抑制
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光沢のあるきれいな仕上げ面(Ra改善)
そのため、以下の加工では不水溶性が「必須」となるケースが多くあります。
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ステンレス鋼加工
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チタン合金加工
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低速・高負荷加工
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精密仕上げ加工
不水溶性切削液の注意点・デメリット
① 煙・ミスト・臭気 油性であるため、熱を持つとどうしても煙が出ます。
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高温時に白煙・油ミストが発生
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作業者が吸い込むリスク
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工場全体が油っぽくなる(環境悪化)
② 冷却性能の限界 水に比べて熱を奪う力が弱いため、冷却不足になりがちです。
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高速加工
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発熱量が極端に大きい条件 これらでは工具が熱劣化しやすくなります。
③ コスト・清掃性
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原液で使用するため材料コストが高い
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機械やワークへの付着が多く、ベタつく
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洗浄・脱脂工程の負担が増える こうした間接的なコストも考慮する必要があります。
切削液の違いから考える正しい選び方

切削液選びで大切なのは、「種類の違い」を知ることだけではありません。 本質的には、その加工が「冷却重視(熱対策)」なのか「潤滑重視(摩擦対策)」なのかを見極める、工学的な判断が求められます。
切削現象は、以下の3要素で決まります。
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切削速度(Vc)
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切削抵抗(切込み量・送り)
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被削材の削りやすさ(被削性)
これらのバランスによって、「熱が問題なのか」「摩擦・凝着が問題なのか」が決まり、最適な切削液もおのずと決まってきます。
高速加工=水溶性が有効となる理由
高速加工(高回転・高送り)では、単位時間あたりの発熱量が非常に大きくなります。 最大のリスクは「熱」です。
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刃先温度の急上昇
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工具母材の熱軟化
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熱変形による寸法不良
水溶性切削液は、「水の高比熱」「高い流動性」によって、切削点へ素早く入り込み、熱を奪うことができます。 そのため、以下の熱支配型加工では水溶性が最も合理的な選択となります。
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アルミ合金の高速ミーリング
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一般鋼の量産穴あけ
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高回転エンドミル加工
重切削=不水溶性が有効となる理由
一方、低速・高送り・大切込みの重切削領域では、発熱よりも「圧力と摩擦」が問題になります。
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刃先と被削材の強い面圧(押し付ける力)
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溶着(ビルドアップエッジ)
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境界摩耗・欠損
ここでは、冷やすことよりも「いかに金属接触を防ぐか(潤滑)」が重要です。 不水溶性切削液は、強固な油膜と極圧添加剤の化学反応により、刃先を保護する能力が極めて高いため、以下の加工では不可欠になります。
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ステンレス鋼の低速旋削
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チタン合金の荒加工
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高い面圧がかかる突切り加工
「高速=水溶性、重切削=不水溶性」はなぜ基本原則なのか
この原則は、単なる経験則ではありません。切削熱が「どこで発生し、どう除去すべきか」という物理的な違いに基づいています。
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高速加工 → 熱が広範囲に発生 → 「冷却」で全体を冷やすのが正解
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重切削 → 熱が刃先界面に集中 → 「潤滑」で発熱そのものを抑えるのが正解
このメカニズムを無視して選定すると、「冷えない」「焼き付く」「刃が欠ける」といったトラブルに直結します。
切削液を“万能化”しないという考え方
不良率が高い現場ほど、1種類の切削液ですべての加工を賄おうとする傾向があります。 しかし実際には、荒加工、中仕上げ、仕上げでは、求められる性能が異なります。
切削液を工程ごとに使い分ける(あるいは最適なものを選ぶ)ことで、以下のような改善が見込めます。
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工具寿命のバラつきが減る
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仕上げ面粗さが安定する
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寸法不良が減る
実践的な切削液使い分け例
実際の設備環境では難しい場合もありますが、理想的な使い分けの一例をご紹介します。
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荒加工 → 不水溶性切削液(潤滑重視で刃先を保護)
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中仕上げ → 低濃度水溶性切削液(冷却+洗浄で熱を取る)
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仕上げ加工 → 条件により不水溶性 または 微量潤滑(MQL)
このように工程ごとに最適化することで、不良率を数%単位で改善できるケースも珍しくありません。
切削液切替時の技術的注意点
切削液を別の種類に切り替える際は、ただ入れ替えれば良いわけではありません。
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新旧の液が混ざることによる性能劣化
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添加剤同士の予期せぬ化学反応
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防錆性能の低下
これらを防ぐため、タンクや配管の徹底した洗浄が必要です。 また、「ノズルの位置」「吐出量」「噴射角度」も性能を左右します。「液の種類」と「供給方法」をセットで見直すことが、真に正しい選定と言えます。
特殊切削液の紹介
ここまで、水溶性切削液と油性切削液の紹介をしてきましたが、これらのいずれとも異なる第3の切削液というものも存在します。実際に弊社でも使用しているものですが、それは油を使わない切削液です。
特殊な”水”を切削液として使用しているイメージです。
それは何かと言いますと、特殊ポリマー配合のアルカリ電解水です。アルカリ性の切削液なので、金属の錆を防ぎ、さらには、腐敗臭の原因となる細菌繁殖も防ぐために、作業員の健康被害対策にもなります。
アルカリ電解水は洗浄液としても使用されるものなので、切削液として使用すると共に洗浄効果も期待できるため、工作機械が油でギトギトに汚れるという心配も、従来の切削油と比較してほとんどありません。
どんなもんなの?と気になる人はお問い合わせください。
まとめ
切削液は、単なる「冷却用の水」や「消耗品」ではありません。切削現象そのものをコントロールする、重要な「工具の一部」です。
加工品質、工具寿命、そして最終的なコストは、切削液の選び方一つで大きく変わります。 最後に、今回の要点を整理します。
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水溶性切削液
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高い冷却性能と洗浄性が武器。
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高速加工、量産加工、熱が問題になる加工に適している。
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不水溶性切削液
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優れた潤滑性能と極圧性能が武器。
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重切削、難削材加工、高精度仕上げに適している。
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この違いを理解せず「万能な切削液」を探し求めると、慢性的なトラブルから抜け出せなくなります。
重要なのは、目の前の加工が「冷却を優先すべきか、潤滑を優先すべきか」を見極めること。 その工学的な判断に基づき、工程ごとに最適な切削液を選定することこそが、安定した加工と現場力向上への最短ルートです。
ぜひ、自社の切削条件・被削材・工具にマッチした「ベストな切削液」を見つけ出し、加工現場の競争力を高めてください。

