肉厚の薄いパイプ形状部品やゲージ類などの部品加工図面に「サブゼロ処理」の指示が入っているのを見て、なんだろう?
と思っているあなたに、サブゼロ処理の目的や原理を簡単に説明します。
熱処理って指定硬度に入っていればいいんじゃないの?
と思っている人は、是非ともこの記事を読んで硬度だけじゃないってことを気付いてもらえたらと思います。
サブゼロ処理をする目的
サブゼロ処理というのは、熱処理の一環で行われる処理のことで焼入れした鋼材を0℃以下の低温にさらす処理のことです。
一定時間0℃以下にさらし、水中あるいは湯中に投入して一気に解凍することでサブゼロ処理が完了します。
0℃以下、具体的には-100℃くらいの処理と-130℃以下まで急冷する超サブゼロ処理がありますが、いずれも目的は同じです。
熱処理で鋼が硬くなる理由という記事で解説していますが、鋼は焼入れ・焼き戻しをすることで鉄の組織形態が変化します。
焼入れ前(フェライト) ⇒ 焼入れ後(オーステナイト) ⇒ 焼き戻し後(マルテンサイト)
という形に組織変化します。
フェライトは体心立方格子
マルテンサイトは面心立方格子
という構造をとるのですが、焼入れをしてできた鉄のマルテンサイト構造には炭素(C)が入り込みやすくなります。
金属の焼入れ硬度を決定するのは、どれだけ鉄と炭素が結合するかであり、より多くの鉄(Fe)-炭素(C)化合物が形成されることで硬度が高くなります。
つまり、鉄のマルテンサイト構造の中に多く炭素を入れ込むことができれば鋼は硬くなるということです。
このため、SKD材やSKH材などの高硬度鋼は炭素を多く含みますし、炭素以外の元素を加えているものがほとんどです。
一方で、多くの炭素やその他元素を含むことによって、焼き戻しの時にオーステナイト組織がマルテンサイト組織に変化しきれずに残りやすくなります。
これを残留オーステナイトと呼びます。
残留オーステナイトは残留内部応力も発生させ、時間の経過とともに金属変形を引き起こして製品の不具合の原因となることがあります。
特にゲージなど精度要求の高い製品を作る場合には、残留オーステナイトは大きな問題となるのです。
そんな残留オーステナイトをマルテンサイトに強制的に変化させるのが、サブゼロ処理です。
サブゼロ処理を行うことで、残留オーステナイトが除去されて焼き戻し後の製品精度の安定性を高めてくれるということです。
サブゼロ処理と超サブゼロ処理で変わる耐摩耗性
通常のサブゼロ処理はドライアイスなどを用いて0 ~ -100℃くらいまで冷却しますが、超サブゼロ処理では液体窒素などで-130℃以下にまで冷却します。
サブゼロ処理では残留オーステナイトをマルテンサイトに変化させるのですが、それでもやっぱり100%というわけにはいきません。
しかし、超サブゼロ処理を行うとほとんど全てがマルテンサイトに変化するため、より組織が均一に微細化して安定するのです。
しかも、超サブゼロ処理のメリットは鋼の耐摩耗性が普通のサブゼロ処理をしたときよりも2~3倍くらい向上することです。
硬度はサブゼロ処理も超サブゼロ処理もほとんど同じです。
耐摩耗性だけが良くなるのです。
もしも、SUJ2やSKD、SKH材の製品で耐摩耗性が悪いな・・・という悩みがあるようならば、超サブゼロ処理をしてみるとかなり改良されるかもしれませんよ。