TiC(タイシ)処理をSKD11にするなら高温テンパーにするべき理由

部品加工の基礎

Ticコーティングは炭化チタンのコーティングで、非常に硬い皮膜を作り高温でも耐摩耗性に優れています。

そのため、冷間圧造用工具、超硬工具などにも利用され、私らは「タイシ処理」とも呼んでいます。

 

うちの会社では、以前からパイプ材などを切断する鋼管切断用の移動刃や固定刃をSKD11でちょいちょい作っていますが、たまにお客さんが独自にTicコーティングされることがあります。

刃物はこんなものです。

 

問題は図面に記載されている硬度設定とTicコーティングです。



図面に記載されているHRC60-63ってTicするのに必要?

Ticコーティングはそもそも、硬い皮膜を作ることで耐摩耗性を上げる処理です。

それなのにSKD11でHRCをわざわざ60-63まで上げる必要があるのか?

そこに疑問が残るのです。

 

硬いところに硬い皮膜作るんやから、別にええやん!

という安直な考えではダメだと思うんですよね。

 

Tic処理は高温で処理する

まず、Ticコーティングは一般的にCVD処理のため、700~1100℃という高温処理です。

CVDで行う理由としては、コーティングの密着度が良いからだとか。

 

そこで、SKD11の焼入れ温度の話になるが、SKD11はHRC60を境にして焼き戻し温度を変えることがよくあります。

というか一般的かも。

HRC60よりも低い硬度指定をすると、通常は高温テンパーします。

逆にHRC60以上を指定すると、低温テンパーします。

 

つまり、HRC60-63という硬度指定が図面に記載されていた場合、SKD11なら低温テンパーするんです。

 

SKD11の焼き戻し温度

SKD11は焼き戻し温度が500~530℃を境目にして、それ以上高温になると一気に硬度が下がります。

一般的に高温テンパーと言っているのは500℃くらいの処理温度です。

だから、低めの硬度指定をすると高温テンパーするんですね。

 

SKD11でHRC60-63指定しながらTic処理って難しくない?

ここで、Tic処理が500℃以上の温度で行われることを考えると、SKD11なら高温テンパーしておかないといけないということになりますね。

高温テンパーすると、残留応力の低減による破損防止に効果的です。

一方、低温テンパーすると、硬さをとにかく重視した耐摩耗性を求めることができますが、その反面、脆く割れやすいというデメリットがあります。

 

Tic処理は冒頭でも書いた通り、かなり硬い皮膜を作ります。

そのため、処理前のSKD11はできるだけ脆くない状態にしておく方がベストです。

表面はTicで硬く。

中は靭性がある。

これが良い。

 

なので、図面のHRC60-63というのは、ナンセンスだと思うんです。


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SKD11を焼入れ後にワイヤーカットするなら低温テンパー

ついでに書いておきますが、焼入れ後にワイヤーカット加工がある場合は、高温テンパーにするのがセオリーです。

というのも、ワイヤー加工では加工温度が低温テンパーの温度よりも高くなってしまうため、加工中に亀裂が入りやすいからです。

 

もしも、SKD11の焼き戻し温度で高温テンパーか低温テンパーか迷った場合、ワイヤーカットするなら高温テンパーしておくほうがいいです。

低温テンパーだと、残留応力が残ってしまうので割れやすくなっちゃいます。

 

切削加工が本業の人は、焼き入れには無頓着だったりしますが、完成品でお客様に品物を提供することになったら、焼き入れのこともよく考えないといけないですね。

加工が全て完成してから、「あれ?ここにヒビが入っていないか?」というようなことにならないように気をつけよう。

 



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