「タップのOH2とOH3の違いは何ですか?」と聞かれて、数値で説明できますか?
ねじ加工では、有効径や公差のわずかな差が嵌合トラブルや不良率に直結します。特に量産や試作段階では、精度選定を誤るとクレームや再加工の原因にもなりかねません。
本記事では、OH2とOH3の精度差を数値レベルで比較し、ISO6Hとの関係、下穴径との連動、材質別の使い分けまで徹底解説します。
この記事を読めば、設計図面を見ながら自信を持って選定できる判断力が身につき、現場で「なぜその精度なのか」を説明できるようになります。
タップOH2とOH3の違いとは何か

タップOH2とOH3の違いは、めねじ加工における有効径の公差域の違いです。OHは主に国内メーカーが採用しているタップの精度区分であり、加工後のめねじが公差域のどの位置に仕上がるかを示します。この違いを正確に理解しないまま選定すると、嵌合不良やゲージ検査NG、締結強度低下などの品質問題につながります。
とくに量産現場では、わずか0.01〜0.02mmの有効径差が、ボルト挿入トルクや締まり具合に明確な影響を与えます。したがって、OH2とOH3は「番号が1つ違うだけ」と軽視できるものではありません。
OH精度の基本とISO規格(6H)との関係
図面に「M6×1.0-6H」と記載されている場合、これはISO規格に基づくめねじの公差域を示しています。詳細な公差定義については、日本産業標準調査会(JISC)によるISOねじ規格の解説も参照すると理解が深まります。
一方、OH精度はISO規格とは独立したメーカー独自の設定であり、完全一致するものではありません。
一般的な傾向としては、
- OH2:6H公差域の中央寄り
- OH3:6H上限寄り(やや緩め方向)
とされるケースが多いですが、メーカーごとに有効径設定値は異なります。そのため、必ず技術資料で有効径比較表を確認することが重要です。
図面公差とタップ精度の整合を確認せずに選定すると、「新品タップなのに止まりゲージが通る」「通りゲージが入らない」といったトラブルが発生します。
OH2とOH3の有効径・公差域の数値差
具体例として、M6×1.0を想定します。メーカー資料によって差はありますが、OH3はOH2より有効径が約0.01〜0.02mm大きい設計が一般的です。
この差は非常に小さく感じますが、ねじ山角度60°の幾何学関係上、有効径の差は嵌合接触面積に直接影響します。その結果、
- 挿入トルク低減
- 作業性向上
- 締結時のかじり低減
といった効果が得られる場合があります。
しかし同時に、公差上限側へ寄りすぎると、
- 止まりゲージ通過
- 締結強度低下
- 振動緩みリスク増加
という問題も起こります。
有効径が締結トルクと強度に与える影響
締結品質を決める主要因は有効径です。内径や外径よりも、実際のボルトとの接触面積を左右するのが有効径です。
有効径が小さい場合:
- 挿入トルク上昇(例:M6で0.3〜0.5N·m増加)
- 締結時の破断リスク
- かじり発生
有効径が大きい場合:
- トルク低下
- 締結強度低下
- ゲージ不合格
つまり、OH2とOH3の選択は「締まりすぎ」と「緩みすぎ」のバランスをどこに置くかという判断なのです。
タップOH2とOH3の正しい選び方

タップOH2とOH3の違いを理解したうえで重要なのは、「どの条件でどちらを選ぶべきか」という実務判断です。現場では「きついからOH3にする」といった経験則が語られますが、それだけでは不十分です。選定には被削材・下穴径・加工条件・設計図面・ゲージ規格を総合的に考慮する必要があります。
精度選定は工具購入時点で品質を左右します。ここを誤ると、量産開始後に止まりゲージ不合格や締結不良が発生し、大きな損失につながります。
被削材別(アルミ・鉄・SUS)の選定基準
被削材の塑性変形特性や切削性は、めねじの仕上がり寸法に直接影響します。
- アルミ:塑性変形しやすく、加工後にわずかに縮む傾向があります。そのためOH2では締まりが強くなる場合があり、OH3を選定することでトルク安定化が図れるケースがあります。
- 一般構造用鋼(SS400など):切削性が安定しているため、標準的にはOH2が基本となります。
- SUS(ステンレス):加工硬化やかじりが発生しやすく、バリの影響も受けやすい材料です。下穴精度や切削油条件次第ではOH3が適する場合があります。
ただし、材質だけで判断するのは危険です。例えばアルミでも、高速加工や潤滑不足があれば有効径は拡大傾向になります。
下穴径・加工条件・切削油との関係
OH精度の違いと同等、あるいはそれ以上に影響するのが下穴径のばらつきです。
M6×1.0の場合、標準下穴径はφ5.0mmですが、実際の加工ではドリル摩耗や振れにより±0.02mm程度の変動が生じることがあります。この差はOH2とOH3の有効径差と同レベルです。
さらに、
- 切削油の粘度・極圧性能
- 回転数(rpm)
- 送り速度(mm/rev)
- スパイラルタップかポイントタップか
- マシニングセンタの主軸剛性
といった要素が、最終的なめねじ寸法に影響します。
つまり、OH精度は単独要因ではなく、加工条件との相互作用で結果が決まるということです。
設計図面・支給ゲージとの整合確認
実務で見落とされがちなのが、ゲージ規格との整合確認です。
お客様支給の通りゲージ・止まりゲージには、それぞれ精度規格があります。ISO基準なのか、独自基準なのかを確認せずにタップを選定すると、不整合が発生する可能性があります。
確認すべきポイントは次の通りです。
- 図面公差(例:6H)
- 支給ゲージの規格
- タップOH精度の公差域位置
- メーカー技術資料による有効径比較
新品タップであっても、等級選定が不適切であれば止まりゲージが通過することがあります。新品=合格保証ではありません。
正しい選定とは、図面→ゲージ→タップ精度の順に整合確認を行うことです。
量産で失敗しないための実務管理法

タップOH2とOH3の違いを理解し、正しく選定したとしても、それだけでは量産品質は安定しません。量産では、工具摩耗・加工条件変動・検査方法のばらつきといった複合要因が重なり、初品では問題がなくても途中で不具合が発生することがあります。
ここでは、実際の現場で発生した事例を交えながら、再発防止まで含めた実務管理法を解説します。
新品タップでも止まりゲージが通った事例
当社の量産ラインで、新品タップを使用して加工を開始した際、止まりゲージまで通ってしまうという不具合が発生しました。本来、止まりゲージは完全に通過してはいけません。
加工条件・下穴径・切削油を確認しても問題は見当たりませんでした。調査の結果、原因は購入したタップの等級選定ミスでした。
図面公差およびお客様から支給された通りゲージ・止まりゲージの精度規格に対して、選定したOH精度が公差上限側に位置していたのです。
この経験から、当社では以下の標準フローを確立しました。
- ① 図面公差確認(例:6H)
- ② 支給ゲージ規格確認
- ③ タップOH精度の公差域位置確認
- ④ 初品ゲージ検査実施
精度選定は工具購入時点で品質を決めるという認識を徹底しています。
タップ摩耗と有効径拡大のメカニズム
タップは使用回数とともに摩耗します。特にねじ山の切れ刃部が摩耗すると、切削抵抗が変化し、結果として有効径が上限側へ寄る傾向があります。
摩耗が進行すると、
- 止まりゲージ通過率増加
- 有効径測定値のばらつき増大
- トルク低下傾向
といった現象が発生します。
摩耗速度は以下の要因に強く依存します。
- 被削材(アルミは比較的寿命が長いが、SUSは摩耗が早い傾向)
- 切削油の潤滑性能
- 加工速度(rpm)
- 送り量(mm/rev)
- 切りくず排出性(スパイラル/ポイント)
同じOH3でも、加工条件が変われば寿命は大きく変動します。
全数検査が難しい量産での現実的対策
理想は全数ゲージ検査ですが、実際の量産では時間・コストの制約により困難な場合が多いです。そのため、当社では抜き取り検査と交換基準のデータ化を実施しています。
具体的には、
- 100穴ごとのゲージ検査
- 不合格発生数量の記録
- 摩耗傾向グラフの作成
を行い、NG発生前に予防交換する数量を設定します。
例えばアルミ加工では、約1,200穴で止まりゲージ通過傾向が見られました。そのため、1,000穴で交換するルールを設定し、不良ゼロを維持しています。
SUS加工では寿命が短く、700〜800穴で交換が必要なケースもありました。
このように、経験を数値化し、交換基準をルール化することが量産品質安定の鍵です。
まとめ:精度選定は管理まで含めて完成する
タップOH2とOH3の違いは、有効径公差域の違いにあります。しかし本質は、単なる違いの理解ではありません。
重要なのは、
- 図面公差との整合確認
- ゲージ規格との一致
- 加工条件管理
- 摩耗データ管理
- 交換基準の数値化
を統合した品質管理体制です。
新品タップでも不具合は起こります。選定ミスもあれば、摩耗進行もあります。
だからこそ、
「選定 × 検証 × 管理 × データ化」
を実践することが、量産で失敗しない唯一の方法です。


