磁石が付かないはずのSUS304が磁化してしまう理由と対策方法

材料のこと

磁石がくっつくはずのないSUS304に何故か磁石がくっつく!!!

なんで?

異材?

 

いえいえ。

SUS304も条件によっては磁化してしまうんです。

 

 

あなたが今悩んでいるSUS304の磁化がどのようにして起こってしまったのかを解明し、どうすれば非磁化できるかを説明します。

もったいないけど、材料を調達してやり直すしかないか・・・ということを避けるためにも一読ください。

SUS304が磁化してしまう理由

SUS304はオーステナイト系ステンレスと呼ばれていて、クロムを 18%、ニッケルを 8% 含む18Cr-8Niステンレス鋼(18-8ステンレス)の代表例です。

SUS304が磁化してしまうのは、オーステナイト組織がマルテンサイト化してしまうからなんですが、この説明だけでは何のことやら・・・ですよね。

 

オーステナイトとマルテンサイトは金属組織を示す言葉ですが、これらは鋼の熱処理でも重要なことなので「熱処理で鋼が硬くなる理由(オーステナイトとマルテンサイト)」の記事を参照してもらえると分かりやすいと思います。

 

鋼に熱を加えていくことでできるオーステナイト組織と、そこから急冷することでできるマルテンサイト組織では、内部に含んでいるエネルギー(自由エネルギー)が違いますよね。

当然ですが、熱量を多く加えてできたオーステナイト組織の方が自由エネルギーは大きく、熱力学的にも不安定な組織ということになります。

 

ということは、SUS304はオーステナイト組織をもったステンレスなので、本当ならば熱力学的に不安定なはずなんです。

しかし、SUS304にはクロムが18%も含まれていることで準安定性を示すことができているのです。

クロムは金属のオーステナイト組織を準安定化させる機能があるため、クロム10.5%以上を含み炭素量が1.2%以下の金属をステンレス鋼と定義しています。

 

ここで話を戻しますが

  • オーステナイト組織は非磁性
  • マルテンサイト組織は強磁性

を示します。

 

つまり、SUS304が磁化してしまうというのは、なにかの理由でオーステナイト組織がマルテンサイト組織へと変態してしまったからということになります。

SUS304のようなオーステナイト系ステンレスは、組織が準安定なだけであって様々な要因によってより安定しているマルテンサイト組織へと変態するんです。

 

では、何が理由でオーステナイト組織がマルテンサイト組織へと変態してしまうのか?

いくつかの例を紹介します。

 

加工応力が加わった

SUS304を削ったり、曲げたり、叩いたりすると金属組織に加工応力が加わることになります。

その加工応力によってオーステナイト組織がマルテンサイト組織へと変態します。

これを加工誘起のマルテンサイト化と呼びますが、ステンレス加工していると加工硬化が起こりやすいという話を聞いたことはありませんか?

 

これは、切削している部分に加工応力と加工熱が加わって、SUS304の組織がマルテンサイト化してしまっていることを指します。

加工硬化を起こさないようにするには、ステンレス用の工具の選定や加工条件がとても大事になりますね。

 

1200℃以上の高温化にさらされた

SUS304の組織はオーステナイト組織ですが、1200℃以上になるとフェライト組織というものが出現します。

フェライト組織も磁性を持つため、SUS304が磁石にくっつくようになってしまうのです。

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超低温化で使用した

液体窒素(-196℃)や液体酸素(-183℃)、液体水素(-253℃)のようなものに触れていると、SUS304の組織はマルテンサイト化してしまう性質を持っています。

そのため、磁性を持つようになる。

 

ただ、SUS304のようなオーステナイト系ステンレスは、0℃以下の低温化でも靭性や耐衝撃性の低下は少ないのが特徴であり、低温用の材料としては他の金属よりも優れているとされます。

 

化学薬品にさらされた

SUS304は耐食性や耐熱性に優れているステンレスですが、強い塩や酸にさらされると腐食してしまいます。

なので、強酸・強塩基の薬品を保管するのに使用はしない方がいい。

腐食した部分から磁性を持つようになります。

 

鋳物でフェライト組織が残っている

SUS304の鋳物材料(SCS13)を使う場合、磁性を持っていることがあります。

これは、鋳造の過程で高温にして溶かしているわけですから、金属組織にフェライト組織が残ってしまっているからです。

あるいは、マルテンサイト化した組織も混じっているから。

 

SUS304の磁化を解消する方法

磁石がひっつかないという特性を利用したいのに、磁性を持ってしまっては使えない・・・

そんな悩みを解消するために固溶化処理(1000~1200℃に加熱後、500~900℃に急冷)をすればよいです。

 

固溶化処理をすることで、マルテンサイト化してしまった組織をオーステナイトに戻すことができるので、磁性が無くなります。

ちなみに、溶接した時などは500~800℃くらいに温度が上がるため、溶接部でステンレス本来の耐食性が低下してしまいます。

これを解消するときにも固溶化処理をすることがあります。

 

熱処理以外で磁性を帯びてしまったSUS304を元に戻せないのか?という疑問もあるかと思いますが、今のところ、金属組織を変態させるためには熱エネルギーを加えるのが最も効率的であるため、熱処理以外の方法はないのではないかと思います。

もしくは一か八かですが、脱磁器を使ってみる方法があります。

工業用の脱磁器は数万円以上と高価なので、Amazonなどで売っているポータブルの脱磁器を購入して試してみるのもよいかもしれません。

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