高周波焼き入れの原理とか素材の話になった時、避けて通れないのが誘導加熱という単語です。
高周波っていうのは「電気の力で金属の表面を硬く焼入れすること」といった感じになんとな~く知っているけど、SUS304のような非磁性体の金属では高周波焼き入れをしてもほとんど熱くならないのはなぜか?と問われると・・・・
知らん!!!
という人も多いのではないでしょうか。
専門家でなければ、別に「知らん」で済ましてもいいのかもしれませんが、本稿では気になるという人のために出来る限り分かりやすい解説をしてみようと思います。
是非、最後まで読んでみてください。
誘導加熱って何?
まず最初に、誘導加熱は、簡単に言うと「電気の力で金属を熱くする方法」です。でも、火を使ったり、熱いものに触れたりするのとは違って、ちょっと不思議な方法で熱くするんです。
必要なもの
- 導体(被加熱物):鋼など、電気を通しやすいものが得意です。
- 誘導コイル:導線を螺旋状に巻いたもの。電流を流すと磁場が発生します。
- 交流電源:時間とともに電流の向きと大きさが変化する電源。
加熱のメカニズム
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交流電流による磁場発生:誘導コイルに交流電流を流すと、コイルの周囲に時間的に変動する磁場が発生します。この磁場は、磁力線という仮想的な線で表されます。
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電磁誘導による渦電流の発生:この変動する磁場の中に導体を置くと、ファラデーの電磁誘導の法則に従い、導体内に起電力が発生します。この起電力によって、導体内に渦を巻くような電流、すなわち渦電流(うずでんりゅう、Eddy current)が発生します。
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ジュール熱による発熱:導体には電気抵抗があるため、渦電流が流れる際にジュール熱が発生します。このジュール熱によって、導体の温度が上昇します。
非磁性体が誘導加熱を起こしにくい理由
物質は、磁性体と非磁性体に分類できます。
- 磁性体:外部磁場によって強く磁化される物質(鉄、ニッケル、コバルトなど)。磁束を通しやすい性質(高透磁率)を持ちます。
- 非磁性体:外部磁場によってほとんど磁化されない物質(アルミニウム、銅、金、銀など)。磁束を通しにくい性質(低透磁率)を持ちます。
誘導加熱では、変動する磁場が導体内に渦電流を効率よく発生させることが重要です。磁性体は磁束を通しやすい(透磁率が高い)ため、渦電流が効率よく発生し、ジュール熱による発熱が大きくなります。
一方、非磁性体は磁束を通しにくい(透磁率が低い)ため、渦電流の発生が弱く、発熱も小さくなります。そのため、誘導加熱で非磁性体を効率よく加熱するのは困難です。
補足:ヒステリシス損失
磁性体の場合、渦電流による発熱に加えて、「ヒステリシス損失」という発熱も起こります。これは、交流磁場によって磁性体が磁化されたり消磁されたりする際に、磁性体内部の磁気モーメントの向きが変化することによって生じるエネルギー損失です。
このヒステリシス損失も発熱に寄与するため、磁性体はより効率的に加熱されます。非磁性体ではヒステリシス損失はほとんど無視できます。
まとめ
誘導加熱は、交流電流によって発生する変動磁場を利用して導体を加熱する技術です。磁性体は渦電流とヒステリシス損失の両方で発熱するため、効率よく加熱できます。
しかし、非磁性体は渦電流による発熱が小さいため、誘導加熱には適していません。従って、SUS304を高周波焼き入れしようとしても、熱くなりにくいということです。