高周波焼き入れは、金属部品の表面硬度を高め、耐摩耗性や疲労強度を向上させる効果的な熱処理技術です。しかし、その効果を最大限に発揮するためには、適切な素材選びが不可欠。
あなたは今、高周波焼入れをするにはどの素材を選べば良いか悩んでいるのではないでしょうか。この記事では、高周波焼き入れに適した鋼材について解説します。
さらに、高周波焼き入れの原理についても解説することで、あなたの素材選びを強力にサポートします。
この記事を読めば、高周波焼き入れの素材選びで迷うことはなくなり、最適な選択ができるようになるでしょう。ぜひ最後までお読みください。
高周波焼き入れとは?原理と効果
高周波焼き入れは、高周波電流を流したコイルによって発生する誘導加熱を利用し、金属部品の表面を急速に加熱し、その後急冷することで表面硬度を高める熱処理技術です。
この技術により、部品の耐摩耗性、疲労強度、耐腐食性などが向上します。
高周波加熱は、交流電流が流れる際に発生する表皮効果と誘導加熱の原理を利用しています。表皮効果とは、高周波の電流や電磁場が導体の表面付近に集まって内部に流れない現象のことです。 高周波電流が金属表面に集中して流れていると想像してください。
周波数が高いほど、この表皮効果が大きくなります。
誘導加熱は、交流電流によって発生する磁場が金属内部に渦電流を発生させ、その抵抗によって発熱する現象です。
高周波焼き入れに適した素材
高周波焼き入れは、主に炭素鋼、合金鋼、軸受鋼、一部のステンレス鋼などの鉄鋼材料に適用されます。その理由は、先ほど記載した誘導加熱を起こすことができる素材であるからです。
一方で、高周波焼き入れできない素材も存在します。代表的なのが非磁性体であるSUS304です。
その理由については、誘導加熱の原理【SUS304が高周波焼き入れできない理由】で説明していますので参照してください。
高周波焼き入れを行うそれぞれの素材には特性があり、求められる硬度や使用環境に応じて適切な素材を選択する必要があります。
- 炭素鋼: S45C、S50C、S55Cなどは、比較的安価で加工性にも優れており、広く使用されています。炭素含有量が多いほど硬度が高くなります。(熱処理で鋼が硬くなる理由(オーステナイトとマルテンサイト))
- 合金鋼: SCM435、SCM440、SNCM439などは、クロムやモリブデンなどの合金元素を添加することで、強度、靭性、耐摩耗性などを向上させた鋼材です。
- 軸受鋼: SUJ2などは、高い硬度と耐摩耗性が求められる軸受などに使用されます。
- ステンレス鋼: SUS420J2、SUS440Cなどは、耐食性に優れており、腐食環境で使用される部品などに適しています。
素材選定のポイント
素材を選定する際には、以下の点を考慮する必要があります。
- 必要な硬度と深さ: 部品に求められる硬度と、硬化層の深さを考慮して素材を選定します。
- 部品の使用環境: 使用温度、腐食環境、負荷条件などを考慮して素材を選定します。
- コストと量産性: 素材の価格や加工性を考慮して、コスト効率の良い素材を選定します。
高周波焼き入れでは、金属表面のみを硬くして深部は焼入れされていない状態になります。そのため、シャフトや歯車のように深部までガチガチに硬くすると割れたり折れたりする心配があるものは高周波焼き入れをすることが多いです。
高周波焼き入れの他には窒化処理も表面だけを硬くする処理の代表例として挙げられます。
まとめ
高周波焼き入れの対象素材は磁性体であり尚且つ電気を通すことが条件となります。
また、金属の種類によって焼き入れ温度や焼き戻し温度が異なりますし、金属の性能も異なります。
そのため、高周波焼き入れに適しているかどうかを調べてから処理するようにしましょう。