金属加工用の工具や金型への表面処理技術の1つとしてPVDコーティングとCVDコーティングがありますが、PVDとCVDの違いが分からなくては部品加工を専門に仕事をする者として困るなぁと実感していませんか?
PVDとCVDは異なったコーティング技術であり、それぞれに利点欠点がありますので理解しておかなければ間違った選択をして失敗してしまうこともあります。
そこで、本記事ではPVDコーティングとCVDコーティングの原理の違いを解説すると共に、どちらのコーティングを選択した方が剝がれにくく長持ちする工具や金型ができるのかについても説明します。
そもそもコーティングとは?
コーティングと聞くと車のボディコーティングをイメージする人もいるでしょう。
しかし、金属部品加工においてのコーティングは車のコーティングとは全く異なります。
そもそもコーティングとは、母材となる金属工具や金型などに硬い薄膜(3-8μmくらい)を密着形成させて機械的性能(耐摩耗性や硬さ)を向上させるために行います。
コーティングによく使われている材料にはTiC(炭化チタン)とかTiN(窒化チタン)、TiCN(炭窒化チタン)などが多いです。
聞いたことありませんか?
TiNやTiCNなどの材料はペンキのようにペタペタと塗るわけにはいきません。
金属加工に使用される工具や金型は非常に厳しい寸法管理が必要な部品であるため、コーティング処理ではとにかく薄くて硬い皮膜を母材に密着させることが必要になります。
母材に硬い皮膜コーティングを作る方法は蒸着という手法を使います。
蒸着とは、コーティングするチタンとかクロムなどの物質を高温にして蒸発させ、目的の母材に吸着させる方法です。
この蒸着にはPVDとCVDという2つの方法があるのです。
PVDコーティングとは
PVDは「Physical Vapor Deposition」の略で、物理的反応を利用した物理蒸着のこと。
例えば、TiN(窒化チタン)皮膜をつけたい場合。
PVDだと蒸気化した窒素(N)とチタン(Ti)を400-500℃の真空炉内でくっつけて、蒸気TiNに変化させます。
それをプラズマなどによって、母材に物理的に衝突させるわけです。
なんで真空炉なの?という質問があるかもしれませんね。
答えは単純です。
蒸発させたいチタンなどを気化しやすくするためです。
これは、化学になっちゃいますが、真空近くまで減圧すると気化しやすいんです。
物理的に母材にぶつけられたコーティング物質はその後、冷却され固まってコーティングが完成するのです。
ということで、PVDのイメージとしては、鍋でお湯を沸かして出てきた蒸気が窓ガラスに当たって濡れるような感じですね。
なので、物理気相蒸着、物理気相成長、物理蒸着などと呼ばれるわけです。
CVDコーティングとは
CVD「Chemical Vapor Deposition」の略で、化学気相蒸着、化学気相成長、化学蒸着などと呼ばれています。
CVDもPVDと同じくコーティング物質を気化させるのは同じです。
ただし、CVDコーティングでは処理温度が700~1100℃くらいにまで上昇しますので、PVDが500℃くらいだったのに対してかなり高温です。
まず母材をヒーターによって加熱し、そこに気化した複数のコーティング素材を接触させると、それらコーティング素材は熱せられた母材の上で化学反応が起きてコーティング皮膜ができるという仕組みです。
PVDとCVDの違い【メリット・デメリット】
PVDとCVDには処理温度によるメリット・デメリットがあるのですが、よく挙げられる点について紹介します。
まず、同じ種類のコーティングであれば、PVDであってもCVDであっても硬度は同じですが、母材とコーティング膜の密着度に差があり、より密着度が高いのはCVDです。
また、CVDはPVDよりも均一にコーティングされる利点があります。
ただし、これまで説明してきたようにPVDコーティング、CVDコーティングはそれぞれ処理温度が異なりましたよね。
PVDが400~500℃くらいだったのに対して、CVDは処理温度が1000℃近くという高温になります。
1000℃では金属の寸法変化が起こるリスクが伴いますので、工具や金型では寸法管理の点において懸念点が残りやすい。
金属の寸法変化は熱処理の工程で発生することが当たり前ですが、これは熱処理によって金属組織の変化が起こるためです。
詳しくは別記事で解説していますので興味があれば参照してください。
>>>熱処理で鋼が硬くなる理由(オーステナイトとマルテンサイト)
一方、PVDならば金型や工具の焼き戻し温度以下でコーティング可能なので変寸の心配はほとんどありません。
つまり、コーティング方法の原理が異なるPVDとCVDでは、それぞれに利点・欠点があります。
剝がれやすさを懸念するのであればCVDの方が蒸着する力が強いですが、寸法変化を懸念するのであれば低い温度で処理できるPVDを選択する方が良いということになります。
まとめ
PVDとCVDの簡単な違いを説明しましたが理解して頂けたでしょうか?
物理的にコーティング材料をぶつけるのか、科学的に蒸着させるのかの違いです。
ちなみに、ここでは触れていないコーティング技術としてALDコーティングがあります。
ALD(Atomic Layer Deposition)ではPVDやCVDと比べて超薄い被膜を形成することが可能であるため半導体などの分野で活用されています。
興味があれば調べてみてください。