マトリックスハイス(セミハイス)とは何か?

部品加工の基礎

冷間鍛造や温間・熱間鍛造でよく使用されるハイス鋼(高速度工具鋼)によく似た名前のマトリックスハイス(セミハイス)って何だろうと疑問に思ったことがありませんか?

ここではマトリックスハイスについて、簡潔に説明しようと思いますが、その前にハイスって何かを知らないと話にならないので、ハイスについても説明しておきます。

ハイス鋼とは・・・重宝されている理由

ハイス鋼は”高速度工具鋼”のことだと色々なサイトなどで説明されていますが、これが何のこと?どういう意味?という素人さんのために簡単に説明しておきます。

金属加工(切削)をする時には、硬い金属を削るためにさらに硬い金属が必要ですよね。

豆腐で金属は削れません(笑)

じゃあ、鉄より硬いダイヤモンドで削ればええやん!と思っちゃいますけど、ダイヤモンドなんか高くて使えません。

なので、やっぱり硬い金属(合金)を作るしかないな・・・ということで出来上がったのがハイス鋼という鋼(はがね)なんです。

 

高速で回転させて金属を削るための工具鋼として利用できる優れものとして誕生したのがハイス鋼であり、英語で記載するとHigh-Speed-Steel(ハイピード・スチール)であることから、「ハイス」と業界では一般的に呼ばれているのです。

 

ハイスが重宝されているのは、ただ単に硬いというだけじゃなく工具として利用する時に重要な靭性(じんせい)も兼ね備えているからです。

靭性というのはしなやかさのこと。

”硬い”と”しなやか”というのは、相反する性質なんですが、そこそこ硬いのにしなやかさもそこそこあるというバランスが良いとされるのがハイス鋼なんです。

 

ハイス鋼の構成

そもそも、私たちが普段ふれている金属のほとんどは純粋な鉄ではなく、様々な元素を含んだ合金であることを知っておかないといけません。

硬い金属を作るためには”焼入れ”という工程が必要になりますが、金属が焼入れで硬くなるのは含まれる炭素量によって左右されるということを以前、別記載でしました。

➡ 熱処理で鋼が硬くなる理由(オーステナイトとマルテンサイト)

 

実際に炭素量を多くして硬くした合金として、金型によく使われるダイス鋼というものがあります。

ダイス鋼の”ダイス”は金型という意味です。

ダイス鋼では焼入れをすることでHRC60~63程度の硬さにまで上げることが可能となり、炭素鋼であるS45CがHRC55程度であることに比べて硬いことが分かります。

 

ダイス鋼には炭素が1.5%ほど含まれているのに対して、炭素鋼は0.45%程度しか含まれていませんのでこの違いが硬さの違いに表れていると思ってもらえると分かりやすいです。

しかし、金属(合金)の難しいところは炭素量だけが硬さを決める要素ではないということです。

 

以下に、ハイス鋼であるSKH51とダイス鋼であるSKD11の成分比較を表にしました。

数字は%表記であり、硬さはHRC表記です。

材質 C Si Mn Cr Mo W V 硬度
SKH51 0.85 <0.4 <0.4 3.9 4.8 6.1 1.9 63
SKD11 1.5 <0.4 <0.6 12.0 1.0 0.3 60

C:炭素、Si:珪素、Mn:マンガン、Cr:クロム、Mo:モリブデン、W:タングステン、V:バナジウム

 

見てもらえると分かりますが、ダイス鋼よりもハイス鋼の方が炭素量が少ないのにも関わらず、硬度が高いですよね。

あれ、おかしいな・・・と思いましたか?

 

注目したいのはハイス鋼に多く含まれるモリブデン(Mo)、タングステン(W)、バナジウム(V)です。

これらの元素が炭素とは別に金属の硬さを上げるための要素となっているんです。

ハイス鋼にも種類があってSKH51の他、SKH55などがよく使用される代表例ですが、こういった元素の組成割合を変更することで性質を変えているということになります。

ハイス鋼はなぜ炭素量を減らしているのか?

ハイス鋼はダイス鋼と比較して炭素量が少ないことがわかりました。

でも、なぜわざわざ炭素量を減らしているのか。

その理由は、焼入れの仕組みにありますが炭素量を増やすことで金属は焼き入れで硬さを上げることが可能になる一方で脆くて欠けやすい金属になってしまいます。

 

硬さと靭性が相反する性質であるということが理解できれば分かることですね。

なので、硬すぎると割れやすくなるという現象を改善するために、あえて炭素量を減らして靭性を高める一方でモリブデンやタングステンなどを添加して硬度を高めているのです。

 

マトリックスハイスとは

ハイス鋼は炭素量を減らす代わりにMo(モリブデン)やW(タングステン)などを添加することで高強度で靭性もそこそこの合金になっていることを説明しました。

では、マトリックスハイスとは何か?・・・と言う前に、そもそも”マトリックス”って何でしょうか?という人も多いのではないかと思います。

 

マトリックスという言葉は、間質、素地、基地などの呼称がありますが、要するに鋼であれば鋼を構成する大部分の鉄(Fe)とその他の混合物と認識してもらえればよいかと思います。

熱処理によってフェライト➡オーステナイト➡マルテンサイトと組織が変化するという説明があったりするのは、このマトリックス部分の話のことです。

 

で、マトリックスハイスって何?という話に戻しますと、結論から述べればハイスとダイス鋼の丁度中間くらいの性質をもつ鋼のことを指します。

ハイス鋼よりも炭素量をさらに減らしつつも、ハイス鋼くらいの硬さを保持し、なおかつマトリックス中の合金元素を増やすことで靭性を上げて割れにくくしたものです。

ハイス鋼に準ずる鋼材ということから、セミハイスとも呼ばれたりします。

 

マトリックスハイスとしては、各社がオリジナルブランドの鋼材をリリースしてますが、大同特殊鋼ならDRM、日立金属(プロテリアル)ならYXR、不二越ならMDSが有名でよく使用されています。

金型用金属として使用されることが多く、熱間鍛造用、温間鍛造用、冷間鍛造用に種類があります。耐摩耗性があって変形しにくく割れにくい金属という理想の金属を求めてたどり着いたのがマトリックスハイスということです。

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