遺伝性難聴の治療に期待される「聴力回復の報告論文」に想うこと

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生まれつき高度難聴を示す子供が生まれてくる確率は1000人に1人と言われています。

そのうち、70%が遺伝子になんらかの異常があることによる遺伝性難聴であり、このうち症候群性難聴が30%、非症候群性難聴が70%と考えられているそうだ。

([専門医通信 2015年]自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児耳鼻咽喉科 伊藤真人)

症候群性難聴とは難聴だけでなく、その他、骨格・眼・皮膚・腎臓などの疾患が併発しているものであり、一方で非症候群性難聴は難聴以外の症状がないものを指します。

発症時期は先天性のものをはじめとし、幼少期に発症する早期発症タイプと40~60代で発症する後天性のものとに区別され、人によって異なる。

40~60代の発症はその年齢から加齢性難聴と誤診されやすく、補聴器の使用を開始する人が多いですが、遺伝性難聴の特徴としては進行性であるということです。

なので、補聴器を使用していても時間と共に段々と聞こえが悪くなってしまうことで気づくこともあります。

現在、遺伝性難聴の治療(対処法)は限られた方法しかなく、根本治療はできないものとしてみなされています。

そんな中、科学誌Natureで遺伝性難聴の回復を報告する論文が発表された(Nature volume553pages217–221 (11 January 2018)。

これは、難聴を悩みとしている人々にとって希望の報告でもあると言えます。


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遺伝性難聴は原因遺伝子が多様であるため治療が困難である

これまでに遺伝性難聴の原因遺伝子は優性遺伝形式をとる難聴の原因遺伝子としてKCNQ4、COCH、EYA1、TECTA、WFS1、CRYM、MYO7Aなどが同定されていますが、難聴に関する遺伝子の総数は100種類以上ともいわれています。

遺伝性難聴であるかどうかは血液を採取して遺伝子検査をすれば推測することができます。

ここで「推測」としたのは、100種類以上ある原因遺伝子のうち、どこに確実に原因があるのかを突き止めることが難しいということでもあるのです。

遺伝性難聴の問題として、原因遺伝子の変異部位がいくつかあり、それぞれによって発現している難聴症状の程度や型というものが異なることが挙げられます。

どこの部位にいくつ変異があるのかも全てを網羅的に調べることが難しいということです。

現行の遺伝性難聴の対処法は限定的である

遺伝性難聴だと診断された場合、その対処法としては補聴器で聴力を補うのが一般的です。

ただし、通常の補聴器は外からの音を増幅する機能しか持たないため、高度難聴では限界をきたすこともあります。

その時には、人工内耳を手術によって埋め込み補聴器と組み合わせて対処するという方法をとることも検討できる。

人工内耳を埋め込むインプラント型の手術の場合、大きな問題が2つある。

1つは手術を受けないといけないということ。

2つ目は人工内耳の場合は、音の骨伝導システムを活用しているため耳の上や後ろあたりに集音機が装着され、見た目のストレスが大きくなる。

これら問題もあるため、聴力補助の効果としては実証されているものの、抵抗が大きいと感じる人も多いことは確かなのです。

ただ、これら補聴器などはいずれにしても根本治療からは程遠いため、遺伝子治療の研究結果を待って臨床応用を期待している状況でもありました。

そんな折、2018年1月に掲載された冒頭でも紹介した論文が難聴治療の世界では大きなニュースとなったのです。


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遺伝性難聴の根本治療へ

研究発表をしたのは、米ハーバード大学などの研究チームです。

彼らは、耳の中(内耳)にある蝸牛と呼ばれるカタツムリに似た巻貝状の形態をしている器官の細胞に働く遺伝子Tmc1に着目したのです。

Tmc1遺伝子は蝸牛で音の振動を電気信号に変換する重要な働きをするものです。

この遺伝子は常染色体(父親と母親の両方から受け継ぐ遺伝子)に存在しており、両親のどちらかが変異している場合は、100%遺伝性難聴を受け継いでしまいます。

研究チームはこの変異したTmc1遺伝子をCRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)と呼ばれる遺伝子編集技術を利用して、特異的に機能させなくする試薬を脂質に包んで投入することで、マウス実験レベルではあるが聴力の回復を確認したというのです。

今までの遺伝子治療では変異している特定のDNAに対する合成DNAとそれを細胞に運ぶウィルスを利用する方法が一般的に認知されていました。

分子生物学を学んだことのある人は、ウィルスを用いた白血病治療の話なども知っているかもしれませんが、ウィルスを使用する場合はどのような副作用が出るかが予測不可能であったため実用化からは遠ざかっている状況です。

しかし、今回のように世界的に研究が進み始めたCRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)という新たな方法が、今後、特定の遺伝子疾患に対する治療法として確立できる見通しが強くなったことを示すインパクトの強い報告には期待したいと思うでしょう。

難聴であるということの苦痛から解放される日

私自身が軽度ではあるものの、遺伝性難聴だと診断されている以上、近い将来に聴力が今以上に下がる可能性は高いわけです。

長年、聴力検査をしてもらっていた担当医からは、聴力が落ちたかなと思った場合は来るようにと釘を刺されている状態ではあります。

幸いなことに今はまだ大丈夫そうですけど、この精神的苦痛は自分以外の人には分かってもらえるものではないと思っています。

私は両耳難聴というハンデを持っている。 でも、全く音が聞こえないわけではなくて、いわゆる老人性難聴というものと同じレベルだと思ってもら...

しかし、今回のように根本治療の第一歩を示す論文が発表されたことは大いに称賛したい。

世界中には、遺伝性難聴の他にもたくさんの難治性の病に悩まされている、あるいは命の危険にさらされている人々がいるわけです。

そういった人たちの一握りでも治療できるかもしれないという一筋の光は大きく広がりを魅せてくれることを期待したいですね。


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