私が個人依頼の相談を受けるなかで、比較的多いなと感じるのがシャフトの加工です。
シャフト(軸)は色々なところで使われているのですが、旋盤やフライス、研磨機などの機械装置がないとちゃんとしたモノができません。
ちゃんとしたモノというのは、軸が曲がっていなかったり、軸径の寸法公差がしっかりと保証されていたりするものを指します。
そして、もう1つ重要なのが材料選びですね。
シャフトの材料としてよく使うものは、ほぼ限定的です。
溶鉱炉の装置とか、分厚い鉄板をすごい力をかけて曲げるために使うシャフトなど、よほど過酷な状況下で使うようなシャフトとかでなければ、工業用と言ってもだいたい決まってます。
なので、個人依頼で「どんな材料にしたらいいのかな?」と迷うかもしれませんが、自分の使う用途に合わせて適当に選んでおけばよいと思います。
ここでは、シャフトに使う材料として、個人依頼でおススメするメジャーなものを紹介します。
もしも、これからシャフトを新たに作りたいと考えている人は参考にして、加工屋さんに依頼してください。
最も安価だけど耐久性も剛性も一番低いSS400製のシャフト
SS400というのは、鉄の材料では最も安価で最も手軽に加工する材料です。
構造用鋼とか言いますけど、そんなことどうでもいいです。
とにかく、性能とかどうでもいいから形になってればよいというシャフトならSS400で作ればいいです。
ただし、金属どうしが激しく擦れるようなところとか、負荷が相当かかるような場合には使わないようにしてください。
すぐに摩耗して痩せてきたり、折れたりします。
個人依頼で最もよく使われるS45C製シャフト
メジャーな素材といえばS45Cではないかなと思います。
炭素が含まれていてSS400よりも強い材料です。
負荷がかかったり、耐摩耗性もそんなに要求しないんだけどなという場合は、S45Cを選ぶ方がベターでしょう。
SS400の方が安いですけど、めちゃくちゃ金額差があるわけでもないし、大きさによってはほぼ同額になることもあります。
それに、S45Cは焼入れができるというメリットがあるのです。
シャフトに求められるのは、表面は硬くて芯はしなりがあるものですよね。
折れにくくて耐摩耗性があるシャフトを作りたければ、表面だけを焼入れする高周波焼入れという方法があります。
あるいは、窒化処理(タフトライド処理)も可能。
金属は焼入れをして硬くすればするほど、靭性(しなやかさ)が無くなって割れやすくなるという性質があります。
なので、あまりガチガチに硬くしてしまうと、使っているうちに折れてしまうのです。
でも、高周波焼入れや窒化処理なら表面だけを硬くすることができるのでおすすめ。
硬質クロムメッキという方法もありますが、シャフトの軸径寸法管理が面倒くさいしコストも単品だと割高になるというデメリットがあります。
S45Cよりちょっと高価で強いSCM製のシャフト
工業用機械装置の軸にも使われていたり、自転車のフレームにも使われたりする「クロモリ」と呼ばれるSCM材はS45Cよりも強靭なシャフトが作れます。
SCMにも種類があり、よく使われるのはSCM415、SCM420、SCM435、SCM440とかです。
なかでも大きく2つに分けて、SCM415とSCM440だけを覚えておけばよいかと思います。
これら2つの違いは、鋼材に含まれる炭素量の違いです。
SCM415の方が含まれる炭素量が少ないのですが、こちらは浸炭焼入れをする時に使います。
浸炭焼入れとは、簡単に説明すると、もともと炭素量が少ない素材に荒加工をした後に炭素を染み込ませて表面だけをカチカチに硬く焼入れすることを言います。
浸炭焼入れのメリットは表面だけを硬くすることができるので、先ほどの高周波焼入れと同じような感じですね。
違うのはその表面硬度で、高周波焼入れよりも浸炭焼入れの方が硬く仕上がります。
一方のSCM440もよくつかわれる材料で、こちらは全体焼入れをしたり、高周波焼入れをしたり、窒化(タフト)処理をします。
ガチガチにはしないけど、そこそこ硬くする”調質”という熱処理をしたSCM440Hという材料もあり、こちらを使うと材料の内部応力が緩和されるので加工中の曲がりが少なかったり折れにくくなったりします。
回転軸とかに使いたい場合は、SCM材をおススメします。
特に表面硬度が欲しいならば浸炭焼入れが良いかなと思う。
実はおススメしたいUT45製シャフト
UT45というのはウメトク株式会社が販売しているオリジナル材料です。(http://www.umetoku.co.jp/brand/45.htm)
金属加工屋でも知らない人は結構多いですけど、知っている人はよく使っています。
私もよく利用させてもらっています。
先ほど紹介したSCM440H(調質材)の代わりとして使うことが多く、UT45の方が材料硬度のバラツキが少ないのと、残留応力がほとんどないので加工しやすいのです。
もちろん、表面硬度を上げるために高周波焼入れをすることも可能です。
スクリューシャフトにも使われたりしていると聞いたことがあります。
価格的にはSCM材とほとんど変わらないくらいですから、個人的にはSCM440を使おうかなと考えているならUT45をおススメします。
ただし、ウメトク株式会社と取引をしている加工屋さんしかこの材料は入手できないのが欠点でしょうか。
sponsored linkとにかく硬いシャフトを作りたいならSUJ2製
リニアシャフトにもよく使われますが、全体焼入れをした硬いシャフトが欲しいのであればSUJ2という材料がおススメです。
リニアシャフトならば、ミスミでも購入できますし安い(法人のみ)。
SUJ2というのは、ベアリング鋼のことでよく使われる材料のため安価で手に入ります。
硬度もHRC60くらいは普通に焼入れで入るので、かなり硬いです。
S45Cの高周波焼入れでHRC50前後くらいなので、それと比較しても硬いですね。
SUJ2でシャフトを作る時の問題点としては、旋盤加工後に研磨工程が必ず入るので、研磨機を持っていない加工屋さんに依頼すると対応できないということもあります。
協力会社に研磨屋さんを持っている業者さんなら対応してもらえるかもしれませんが、問い合わせをして聞いてみましょう。
錆びないことが重要ならばステンレス製のシャフト
水回りで使うのであれば、シャフトが錆びるという問題を考えないといけません。
その場合はSUS304を使うといいです。
SUS304よりももう少し硬さが欲しいというのであれば、SUS440Cという材料を選択することもあります。
SUS440Cはステンレスですが焼入れができますので、表面硬度を上げることができます。
ただし、SUS304より錆びやすいと思ってください。
まとめ
シャフトも使う場面によって必要なスペックが異なります。
自分に合った材料を選択することで、作ったけど失敗した!予想以上に高かった!という問題を軽減することができるかもしれません。
材料を選び、適切な熱処理・表面処理を指示できるようになるといいですね。